風邪に抗生剤は必要ないのか | 耳鼻科医として、ときどき小児科医として

耳鼻科医として、ときどき小児科医として

以前にアメブロで書いていましたが、一時移籍し、再度ここに復活しました。専門の耳鼻咽喉科医としての記事を中心に、ときにサブスペシャリティな小児科診療のこともときに書いていきます。

風邪はウイルス感染なのだから、抗生剤は必要ない。

このような主張から、国は風邪に抗生剤を出すことを禁止するような風潮にある。初診の風邪の子供患者に抗生剤をださないと、点数アップ(診察費があがる)などのメリットをつけて、医者が抗生剤を使わないようにと啓蒙してきた。実際に、開業医が風邪の患者に抗生剤をだす頻度は激減している。

 

今までの医者が風邪と思ってきたものの中に、実は細菌感染が中心の場合もけっこうあり、風邪と言われながらも抗生剤をだされてきたがゆえに、よくなってきていたことも多いのだ。

 

具体的な例をあげる。溶連菌性咽頭炎を風邪と判断したが、抗生剤がだされてよくなる。急性中耳炎が合併していたのだが、耳の確認をしなかったが、抗生剤がだされて治ってしまったケース。細菌性急性扁桃炎が風邪だと誤診されたが、抗生剤がだされてよくなったケース。

 

医者が正しく判断できなかったにもかかわらず、「とりあえず抗生剤も」という理由で、抗生剤がだされ、実際に治ってしまっていたケースはけっこうある。

 

しかし、風邪だから抗生剤はいらないと言われ、抗生剤がでていないがために、病気が悪化したり、よくならないケースもかなり増えてきている。

 

大切なのは、医者自身が、抗生剤が必要な病気なのか、必要のない病気なのかを細かく分類し、適切に処方することである。おおまかに風邪としか診断できないケースではその区別がどうにも怪しい。僕自身抗生剤をだすときには、風邪という言葉を極力使わずに、○○という細菌感染症だから、抗生剤を使うと説明するようにしている。

 

風邪はウイルス感染であり、抗生剤は効かない。しかし、このウイルス感染をきっかけに、二次的細菌感染が起こる場合は多い。その際には、抗生剤こそが必要な薬になる。だから、風邪が治らない状態のときには抗生剤がけっこう必要になるのだ。

 

しかし、実際の医者はまったくの逆張りをしてきた。風邪の初診時の抗生剤を使い、症状が長引くと、抗生剤をとめてしまう。その結果、細菌感染はいつまでもよくならない。

 

僕の印象からすると、風邪をひいたばかりの場合には抗生剤がいらないが、それが長引いているような場合には、抗生剤が効くことが多い。これは小児にも、大人にも言える。つまり、風邪のどのステージを見てるかによって、抗生剤が必要かどうかが決まってくるのだ。

 

風邪に抗生剤は効かない。こういうのも極端すぎる。風邪に抗生剤が必要。こういうのも極端すぎる。その考え方が、極端から極端にうつってしまっていて、非常に危うさを感じている。

 

どういう場合に抗生剤が必要なくて、どういう場合に必要なのか。それを見極める能力を医者は学ぶべきである。

 

厚労省が言っているのは、「風邪に抗生剤を使うな」ということではない。「抗生剤を適正使用しろ」ということなのだ。