病院ボランティア | 耳鼻科医として、ときどき小児科医として

耳鼻科医として、ときどき小児科医として

以前にアメブロで書いていましたが、一時移籍し、再度ここに復活しました。専門の耳鼻咽喉科医としての記事を中心に、ときにサブスペシャリティな小児科診療のこともときに書いていきます。

自分が医者になった数十年前の話です。

病院内での患者さんの案内にボランティアを導入しようという動きがでてきました。たとえば、病院内は複雑で、お年寄りにはわかりづらい。このため、院内にボランティアをいれ、検査室までの案内などをしてもらったらどうかというのが発案です。

 

これが広く知れ渡った時、猛反対されました。誰が反対したのかと言えば、医療スタッフです。

 

反対の理由は、医療のこと、病気のこと、患者のことがわからない人が病院内に入ってきて、何かあったらどうするんだというわけです。その人が急に具合悪くなったときに、素早く対応できるのかというわけですね。とにかく、院内に病院職員以外の人が入ってくるのに、ものすごい批判が起こり、この動きはまったく広がりませんでした。

 

僕なんかは合理的に考えるほうなので、「それはいい方法だね」と思ってしまうのですけどね。そのような患者は、デパートに買い物にも行くわけです。そのときには、病気のことなんてまったくわかっていない、デパート職員が対応するでしょう。それで何が問題なのか。ましてや病院内で何かおこれば、周囲に医療者はたくさんいるわけですから、すぐに対応できると思いますしね。

 

ボランティア導入はだめだと言っていた病院が何をしたか。何もしません。「ボランティアなどにたよらず、自分たち職員がすべてやります」と言うのは本来のあり方だと思うのですが、院内で右往左往する患者はほったらかしなのです。職員はまず動きません。ボランティアを入れたから職員の手が必要ないわけではないのです。重病の患者は職員が対応すべきだと思いますし、元気な人はボランティアにまかせればいいと思います。分業体制をひけばいいだけなんです。

 

それから数十年。大病院の中にはボランティアが闊歩しています。患者さんの院内案内をしてくれたりして、頑張っています。実際に入ってみると、職員の手の届かないところを助けてもらえるわけですから、病院の対応もよくなり、評判もあがるわけです。ボランティアが対応したから、何か問題が起こったなどという話はまず聞きません。

 

ただ、専門外の人が入り込むことには、すごく抵抗がある。それが医療機関という組織です。今回の部屋の清掃業務に関しても、医療を専門的に学んだ人でないと任せられないと言う、すごいハードルがあるのだと思います。もちろん、ど素人が簡単にやろうとするのは危ないと思いますが、それは事前にトレーニングをすればいいのです。

 

ハードルの高さが、医療をきつい仕事にしてしまうのです。もっと柔軟に対応すればいいと思うんですけどね。

 

先日、北千住駅で具合が悪い人がでたようで、救急車が来ているところに遭遇しました。救急隊員が駅に迎えに行き、逆に駅員さんが、患者さんを車いすに乗せて向かってきます。駅員さんが対応すればいいのです。途中でバトンタッチし、救急隊員という医療者に代わります。

 

これが普通の社会だと思うのですが、医療者は、すべての駅に看護師を置かないと、まともな対応はできない。そんなことを言うのが常なのです。

 

自分らの仕事の領域を守るという意味合いもあるのでしょうけど、現実には看護師不足ですからね。まして、コロナで対応できるだけの看護師がいないのに、何を言っているんでしょうかね。

 

看護師しかできない業務もあります。しかし、看護師でなくてもできる業務もあります。変なハードルをなくせばいいんですけど、結局その判断をするのは、医療者ですからね。