妊婦の風邪薬 | 耳鼻科医として、ときどき小児科医として

耳鼻科医として、ときどき小児科医として

以前にアメブロで書いていましたが、一時移籍し、再度ここに復活しました。専門の耳鼻咽喉科医としての記事を中心に、ときにサブスペシャリティな小児科診療のこともときに書いていきます。

風邪をひきたくてひいている人はいない。これは妊婦も同じである。

 

以前にも一度書いたことがある。妊婦の風邪の治療をめぐって、産婦人科医とケンカになったことがある。自分が若いころの話である。

 

ある妊婦さんが風邪をひいたと救急病院を受診した。当直当番だった自分が呼ばれた。「妊婦に風邪薬はだせない。産婦人科の医者じゃないから。」と断ったところ、この処方をもとめて、産婦人科医が呼ばれた。その産婦人科医から風邪薬をだされて、その妊婦さんは帰ったそうだ。

 

その後、産婦人科の医師(そのとき担当した医師ではないが)から苦情が寄せられた。

「風邪ぐらいで産婦人科医の手をわずらわせるな。当直医が出してくれ。」

常日頃お産のためにいつよばれるかわからない厳しい待機をしている産婦人科医にとっては、これぐらいのことで呼び出されてはたまらないということなのであろう。

 

風邪をひいたときに、恐れもせずに薬を処方しているのは、ほとんど産婦人科医である。逆に、産婦人科以外の医者は、恐れてしまって何もださないということはよくみかける。お産に敏感で詳しい産婦人科医が薬をだしているのに、なぜ他の科の医者はだせないのか。単に恐れているだけであろう。

 

昨年、妊婦加算が話題になった。世の中の医者は、妊婦に薬をださないどころか、診察を断る風潮があるからだ。診療報酬をあげることにより、妊婦さんが身近な病院でみてもらえるようにという苦肉の策である。

 

僕自身は、若い時の産婦人科医とのケンカ以来、薬の処方をためらわない。本当に危ない薬もあるのだが、それはほんの少しであり、それだけ注意していれば問題ない。風邪のときに飲んではいけない薬などほとんどないのだ。

 

それであっても、「何かあると大変だから」と薬をださない医者は多い。薬を出すといことは、妊婦でなくても副作用は起こる可能性はあるんだよ。リスクをおえない医者は、そもそも診療すべきではない。専門的知識をもって対応できるのは医者だからこそなのだ。

 

ドラッグストアに行けば、「妊娠している方は、最寄りの医者に聞きましょう」とほとんどの薬が書いてある。実際に医者に行ったら、飲んではいけないでは、誰に頼ればいいのだろうか。

 

風邪に薬など飲まなくとも治るが、飲んでまずい風邪薬はほとんどない。妊娠終盤は、解熱鎮痛剤だけさけておけばいい。素人じゃないんだから、風邪薬を飲ませることを恐れてはいけない。医者は専門職なのだから、知識でカバーしなければならない。