コーヒーを淹れてる涼太の背中に向かって話しかける



「ねえ、りょうた、


りょうたに彼女が出来たら私はヤキモチ妬いたりするのかな?


なんかねイメージがぼんやりしててリアルに想像出来ないの。


りょうたは若い子と幾らでもこれからの未来を描けるって


そう客観的に思ってるからだと思う。


昨日のAさんとのことがあって考えたの、


若い子との未来の方がりょうたにとっては幸せなんじゃないかと


思いながら今の状況に甘えてる。


私ってズルいよねって、ちょっと落ち込んだ」



注がれたカップを目の前にそっと置いて、涼太も腰掛けた。



『若い子との未来って何ですか? それで俺は幸せなんですか?』



「知ってる? 私、今年で40になるの。


更年期って言葉が迫ってきてる...そういう年齢なのよ。


好きな人と結婚すれば自然と子どもを望みたくなる........


私には背負えない」



『それは舞さんの独りよがりです』


「だって......」



『今、大切なのは、今の気持ちであって、描いた未来じゃないんです、


未来で子どもが欲しくなれば、その時に2人で考えればいい。


自然に望めないなら病院を頼ったり、養子を迎えたり道はいくらでもあります。


年齢に拘って壁を作ってるのは舞さんです、その壁は俺が無理にこじ開けても意味がない。


舞さんが自分で取っ払えないとダメなんです』




「はあ」


大きく溜息が溢れる



「ごめん、私が間違ってたね」


なんとも居た堪れずにいる舞に



『真剣に考えてくれてること知れて、内心喜んでます』


対照的な涼太の表情。



『壁が無くなるのか、このままなのか僕にはわからない。


その答えが見えてくるまでは今のままでダメですか?』



「それでいいの?」



『それがいいんです』


「わかった。 でも1つだけ、

人の気持ちなんてどこでどう変化するか


自分のことですら予想つかないから 気持ちに変化が起きた時は


お互い遠慮も気遣いもなしでちゃんと伝えよう」



『わかりました、そうしましょう』




「ねぇ、りょうた、コーヒーお代わりできる?」





<涼太 side)


話しの区切りがついてホッとしたのか、


舞さんはお代わりのコーヒーを美味しそうに穏やかな顔して


味わっていた。


まったく、この人ときたら...


さっき、”ズルい”とか”落ち込んだ”とか言ってたよねぇ。笑





「りょうたのご飯って本当美味しい! ご馳走様でした」



『舞さんが幸せそうに食べてる顔見れて俺は満足です』



「りょうたの料理を食べたら誰だって幸せな気持ちになるよ」



『お褒め頂き光栄でございます』笑



「食器は私が洗うね」



『いいよ、座ってて』



「そのくらいはさせて」


お願いするような顔で見つめた。



『じゃあ、一緒に洗う?』



りょうたと2人並んで  “洗う人、濯ぐ人”  の流れ作業が始まる



「あのさ、りょうたこの前Aさんに告白されたでしょ」


『知ってたの?」



「昨日ね、言われたの....Aさんに」


『何を?』



「宮舘さんを解放してあげてくださいって」



『え! で、舞さんは何て答えたの?』


「解放も何も、占領もしてませんって」


...涼太と目が合う



『で?』


「ムッとされた」


『怒らせちゃったの』笑



「そうみたい。私にその気が無いのなら早く諦めさせてあげてください、可哀想です。って...」



『ふ〜ん』



「何も伝えられてないのに


"私のことは期待しないで諦めて”


って言うの? それって変じゃないって言ったら


プイッとして行っちゃった」



『あーあ、怒らせちゃった』


「誰の所為だと思ってんの...」


『俺の所為?』


「んー、それは違うか」


『だね』



『俺は舞さんが諦めろって言っても諦めませんから』



涼太の言葉に困惑する.........


ちょっと思考回路が鈍くなる



「私はりょうたに何を諦めさせるの? 主語が…ないよ」


『言ってもいいんですか?』



「言ってもいいとか、悪いとか私が決めることじゃないかな


でも…なんか今のは言い方が悪かったね


催促したみたいに聞こえたならごめんなさい」



こんな話しをしているうちに洗い物が終わってしまった。



「さてと」


帰り支度を始めようとすると


『え、もう帰るの?』


慌てて引き止められる。



「まだいて欲しい?」



『食後のコーヒーもご用意させてください』







《涼太宅》



『はい、これ』


「いただいていいの?」



『この前のお礼と言っていいものかどうかだけど、


家(うち)の行きつけの焼肉屋のドレッシング、


これ美味しいんだよ。


母が舞さんにもって送って来たんだ』



「嬉しい。


"ありがとうございます”って


伝えといてね」




『うん、言っておくね』



「観光出来るような所少ないけど、楽しんでもらえたのかしら??


こんな田舎だけど私はここが大好きで、楽しかった!また来たい!


って思ってもらえたらなって...」




『いい所だねって言ってた。そのうちまた来るんじゃない?』



「良かった」



涼太の言葉に舞が安堵していると

段ボールをガサガサしながら涼太が続ける



『あ、これも食べて、近所の和菓子屋さんの饅頭。


これ美味しいんだよ。 はい。』



「和菓子も好き♥   半分こしよう!」



『はい、半分こ。


今から夕飯作るんだけど、舞さんも食べてく?』



「お!りょうたのご飯食べれるの!」


と思わず笑みが溢れてしまう。


そんな舞を見て


『はい、決まり!」


段ボールを片付けるとキッチンに移動した。