80 11月10日 火曜日。くもりのちあめ。 ふと気付く。 この何日間か、わたしはこの家を 完全にわたしの家だと思いこんでいたこと。 今日は、すこし暖かくて、 柔らかい雨が降って、 友子さんと、 一緒に住んでいただろう誰かのにおいが、 におい立ってくるような 天気だった。 部屋に置き去りにされた ひとつひとつのものが、 はっきりとした色を持っていることに わたしは、ちょっと責められたような気がした。
79 11月9日 月曜日。はれ。 どういういきさつからだったか、 リンコさんがうちに遊びに来ることになった。 今日が、その日だった。 誰かをもてなす事などなかったので、 あたふたする。 椅子をすすめ、 ぎこちなく紅茶を出したりするたびに、リンコさんは 「これいいね」「かわいいねこれ」 と言ってくれる。 何か読み物を、と思って手渡したのがお店のクーポン付きのフリーペーパーだったりしても、 「これいいね」 と言っている。 何を話したのかほとんど覚えていない。 テレビのリモコンに手が伸びかかった頃、 リンコさんは帰っていった。 その後、結局テレビはつけず、 外に出てしばらく歩いた。
78 11月8日 日曜日。はれ。 漬けてある梅酒のにおいをかぐ。 もう飲めるんじゃないだろうか。 注ぎ口はきれいで、使った形跡はない。 大家さんが気にしていたな。 そういえば、最近、大家さんがやってこない。
77 11月7日 土曜日。はれ。 地層のことを考える。 少しだけ。 わたしの家から仙川の方に歩いていくと 必ず、大きな坂にぶつかる。 見上げると家々がある。 さらに見上げると、空がある。 自転車にひかれそうになったので、 移動する。