ことし、秋冬の降水の不足に心さ
わいだのも、別荘の果樹の成長が気
にかかっていたから。
気にかかるから、春休みになった
とたんにドライブがてらしばしばで
かけてみている。
すると、
柚子も、みかんも、夏みかんもひと
まわりちいさめななか、グレープフ
ルーツが、こんなに存在感を発揮し
はじめてきている。
一昨年ぐらいまでと比べたらたし
かに少しこぶりだけど、この果実は
こんなふうに群れて穠る。群れて穠
るからこの名があると、ある俳優さ
んのご母堂から聞いたことがある。
そのときに、ご母堂からそのおお
きな果実をひとつ頂戴したのだった。
「ことしはこれがひゃくいっこな
ったんですよ」
ということばとともに。
このかたは横浜市のお住まいで、
その前庭でりっぱなグレープフルー
ツを育てておられた。
でも、ちいさな緑の樹枝からする
すると葉が伸び花が咲き始めたおり、
なんの樹かわからなくて、それでも
日々に成長を楽しみにしていると見
たこともない不思議な蒼い実が小さ
くつき出して、それがそのグレープ
フルーツだと知ったのだという。
なんでわが家にこんな果実がとふ
しぎにおもっていたある日、ご近所
の古老があらわれて(⇦こんなふう
に書いていると、われながら、なに
やらお能の一場を語っているような
香ばしい匂いがしてくる)、その古
老の口から、もう二十年ほどの昔に
先代のおばあちゃまがここに何かの
種子を埋めておいででしたよと知ら
されたのだという。
ある俳優さんの母堂、その義理の
母上の思いの遺伝子を受け継いだグ
レープフルーツが、実をいえばわが
家のそれなのである。
ご先代は果実の穫りを見ずに亡く
なり、当のご母堂ももう長い介護の
末に他界されている。
横浜の地から遠く離れたわが家の
別荘でその遺伝子がこんな穠りを受
け継いでいることを、この書きては、
ながいあいだ、身近なものたちのほ
かはまだ誰にも伝えないでいる。
年々に感じるこの果実の愛おしい
ほどの頼もしさは、わが子のようで
もあるし、特別な教え子のようでも
ある。どうしよう!