舞台が大好きだ。

カオスフルな人生の暇を偸んでは毎月のように観にでかけている。先週は周の初蕾、楽日にあたっていて、俳優さんたちの熱と凄み?の二時間半のうちに5度泣いて4度声立てて笑った。

その凄みの底に周五郎の原作のしたたかな構築と工夫&留意の深い演出が効いていた。

終演後、僅かな時間ながら演出の阿部さん、また清郷さんたちと語れたことも幸福だった。

全てが江戸後期ごろの雰囲気を再現を試みていたなか、唯一つ、ぼくの心を冷っと襲ったものがあった。

あの頗る象徴的なうめの手習い、最後列まで鮮明に見えたその大きな文字列の「こたろう」が、劇中せっかく積み上げたこの時代ドラマの良質な雰囲気に急に出現した極端な時代ハズレだったからだ。時代考証などとは言わないけれど、近世期への教養として、向後、再演のおりに「こたらう」にする知見が生まれていたらうれしい。こたろう、でなんとも思わない世の一般の感覚に正当な「こたらう」を示して、時代物を演じる周の根幹と心意気をさり気なく伝えてほしい。