♪光の華が 咲き乱れて
都は今宵も オペラに溢れる♪
『虎ノ門ヒルズまで』
乗り込むとすぐバックからパソコンを取り出した。
『遅くなりました、移動中なので•••』
すごい時代になったもんだ。タクシーの中からでも会議に参加できる。
大手町の高層ビルを背に、前方の霞ヶ関、その先の虎ノ門オフィス街の光を目指す。
祝田橋の交差点は5車線、直進と左折は左側の1車線のみである。信号待ちで見る内堀に《ペニンシュラ》の灯りが映る俺の好きな夕暮れである。
PCからは何やら真剣に進行する司会者の声と、カンペを棒読みする参加者の声、そして(参加します)と言ったそばからスマホに何か打ち込む客。
『連れが今来るんで少し待って』
車寄せでしばらく待つ間も会議は進む。
今度はPCのキーをとてつもない速さで打ち出した客。
(あぁ絶対について行けない、タクドラになって良かったぜ)
本当にそう思う。電話よりLINEでのやり取りの時代ですら面倒だったあの頃から、コロナを経て更に進化した時代である。
『開けて』
現れたのは着飾った女性
乗り込むとすぐに軽いキスを無言で交わした。
(えっ?PCに映り込んでないんだろうか?音声と文字だけの参加なんだろうか?そしてこの女性は?)
『じゃ銀座に行って』
見た瞬間に素人ではないと思ったがやはり銀座か。
《と言う方向性で進めたいと言う事で•••》
会議は順調に、台本どうりに進んでいるようだ。
会議室の内容は昔とたいして変わらないようだ。
予定調和にまじめくさった顔が頷いているのであろう。
『今日は○○の○○さんも来るから、○○ちゃんと○○ちゃん用意して』
『○○ちゃんも着かせてあげてよ』
『いや○○ちゃをは○○のこれって噂だから今日は外してくれ』
客は立てた小指を持て余し、女性の肩を抱いた。
誰もが知る大手企業の名と、知る由もない源氏名。どうやらこの客にとっては、会議室の会議より重要な夜の銀座会議が待っているらしい。
《次の議題は・・・》
『おっとちょっと待ってて』
肩から外した手で、またしても超絶早いタイピングが始まった。
女性も長い爪をカタカタ鳴らしてスマホ画面を叩き始めた。
俺たちの時代は何処に行くんだろうか
会議室の予定調和はキーボードに覆されるのかもしれない。
そして結論は昔と変わらず銀座で決済されるのか
どちらにせよもう俺にはついていきようがない。
『銀座はどちらに向かいますか?』
8丁目あたりと解っていても一応お伺いはたてる。
『博品館を右で金春通りに入ってください』
忙しい客に代わり女性が事務的に答えた。
おびただしい銀座のネオンを外国人観光客がカメラに収めている。
博品館に飾られた玩具が妙に昭和に見えて少し笑える。
宵の口の賑わいが夜中まで続いていれば良いのだが。
♪政治家に憧れた指揮者
科学者に雇われたダンサー
週刊誌を読むだけのピエロ
僕たちは声のない役者♪