桜は入学シーズン4月の花と思っていたが、昨今は卒業シーズンの花である。

生まれ育った北関東が遅かったのか、近年の温暖化の影響が知らぬが、桜吹雪の中で車を転がし、いつの間にか63歳になったわけだ。


『PCのカーソルの中でコードを替えてだね⚡︎••』後部座席には如何にも理系の年長男性と、学生?にも見える新入社員?

いずれもスーツではなくラフな出立なんで昭和男にはわからない。更に話の内容はAIの事らしく興味はあるもちんぷんかんぷんだ。

『それで主体の、あぁリーダーのAIに別の複数AIが検討し合った最適な回答をプログラムさせるんよ』

(そんな事出来るんだ)

『AIにもある程度専門性や癖があるから奴ら同士で話合わせてマーケティングユーザーに見合う構築をさせるれば••』

(なるほどぉそうなんだ、わからんけど)

『人間レベルの会議なんて無駄でしかないよ』

(それはわかる気もする)

若手2人は更に難しい専門用語で質問を繰り返すが、そこに年長者に対する敬語とか丁寧語すらは無く、まるで小学生が遊んでいる様な話し方である。

『だから俺たちは天文学的教育を受けたAIを使いこなして最適化する、一般職や営業マンなんていらなくなるんだよ』


なんかいや〜な感じだが、現実にそうなってきてるんだろうなぁ


『桜の木もそのうちAIがホログラミングで見せてくれる、そうすりゃ倒木も花びらや枯れ葉のゴミも問題無くなるかもな』

(それは風情なくてやだな)


日差しの中の洗車で汗をかく季節になった

明け方の風雨でタイヤボックス周りに桜の花びらがこびりつき落ち難い

(ホログラムもいいかもな)


人間なんて こんなもんだ



『運転手さんはあの時どの辺走ってたの?』


当時はタクドラでは無かったが車に乗ってた事には変わりはない


『八丁堀あたりでね、工事現場の杭打ちミスかと思ってたらビルのガラスが撓んでましたね』

『僕はね、センタービルの51階に居てね、デスクごと横の壁に打ち付けられてさ、ビルが折れると思って怖かったねぇ』


あれから15年も経つわけだ。


『僕大船渡出身でさ、みんな居なくなっちゃったよ。弟がね、助かったのに車で両親探してる時居眠り事故でね、やっと繋がった携帯の留守電が未だに消せなくてね、ほらまだガラケー持ってるの』


そう云えばまだガラケーの時代だったなぁ


『月日の流れは早いですねぇ』

『ホントだよね、残酷だよ。そして僕もこの春定年、墓仕舞いしてきたんだ。』


『ありがとうございました、1400円です』


『PayPayで、だから今日から東京人(笑)あっ本籍地も変えなきゃ、ありがとね、ご苦労様』


『ありがとうございました』


本日1人目の客、東京駅から月島。

あぁそれぞれの3月11日



♪あの時の言葉が 身体を震わす

俺は俺のままさ、いつでも俺のままさ


あの子も今では 素敵な母親

少しは変わってきたさ、世の中お前以外は


道端に白い花が 今はただ白い花が

雨に濡れて風を受けて

声を出して汗をかいて

お前と戯れている♪









『運転手さん景気はどうっすか?』

客から話しかけられる枕詞のようなものである

(ぼちぼちでんなぁ)と返したいところだが

『良かぁないっすね』と即答するしかない

《ニッパチ》との言葉通り売り上げは悪い


『東京は景気いいんでしょマンションも高いし』

そりゃそうなんだろうがバブル崩壊を現場で見てきた俺としては危うい兆ししか感じない


『俺ら田舎もんにはわかんないけどさ選挙も終わって日本はかわるんかね』

この手のフリに乗ると右左東西にわたり面倒になるので『さぁどうですかね』とだけ答える


ニッパチに関わらず市井の景気は良くないようで、空き店舗が増えてきた。投資家からすれば安く貸すなら空かせておけもあるんだろうが、それにしても(えっこの場所が?)空きっぱなしである そう云えば築20年超のマンションも空きが増えている。


『田舎はさぁ変わんないんだよね、バブルの時も今もさ』

それは分かる気がする。郷里に帰るとそう思う。

50年前の店が街に張り付いた絵画のようになり、20年前の店が逆に陳腐に廃れて来ている。


『なんだかねぇ冬季だけが日本みたいに報道されてもねぇ』

不動産の高騰、AIの台頭、ラーメンの千円の壁

確かにビックシティの中での話しなのかもしれないな


『ありがとうございました、お気をつけて』

ヨレたスーツに古めかしいコートが上野駅の中に消えて行った

支持率73% この先どうなるんでしょうかね