ガラス越しに流れる喧騒の中の思ひで

それは夜になると一層に色濃く流れる

およそ30,000人の客を乗せて来たが

知り合いを偶然乗せた事などは一度もない

そんな巨大な街でこんなにも濃密で

こんなにも爛漫な場所に出会えた

そう思うとハンドルは自ずとその店に向かう

固く閉ざされた木製のドアの向こう側に

第二の青春とも言える景色がまだ暖かく

そう生暖かい風や匂いを残していたんだ


ぜんぶ夢でありました

300を超す弔問者の列


ぜんぶ夢でありました

黙礼する知人たちの顔、顔、顔


ぜんぶ夢でありました

哀しみに暮れた10日間


迷い込んだ海辺の箱

ある人は絵本の世界だと言い

ある人は至福の溜まり場と呼んだ


雨の日も風の日もぴんきり解散した日も

通っては歌い満足と力不足で喜怒哀楽

お遊びですら華麗なプロは魑魅魍魎

よくぞこんな場所に出会えたものだ



すべては此処の電脳世界から始まった

一昔前俺はこのブログあえてそう呼んだ

リアルにはあり得ない架空の場所とした

だからこそ此処での名を《リアルコバ》と

架空の中にどんな現実を見つけられるのか

迷惑を承知で会える方とは会いに行った

そこから派生した縁が夢の世界へ繋がった


出会えた方々に感謝したい

夢の箱を与えてくれた方に感謝したい

ひとつの区切りとしてヘッドライトを消し

新しい朝に向かいアクセルを踏んで行く











  指の 指の 隙間から

  あの娘が こぼれて 消えちまった

  我儘な 俺に 疲れ果てて

  あの娘の 足音が 消えちまった


   強がるわけでもねぇさ

   俺にすりゃちっぽけな事

  ただ破れたハートがすき勝手に叫ぶ

  ツラいツラいツラいshe love


  あの娘と 見つけた この店に

  今夜も ブルースが 泣いている


   強がるわけでもねぇさ

   俺にすりゃちっぽけな事

  ただ破れたハートがすき勝手に叫ぶ

  ツラいツラいツラいshe love

  あいた〜い 逢いたいよぉ〜


   しょげてるわけでもねぇが

   もうどうにもならない事

  でも許されるならば今神に誓うよ

  I love you I love you I love you


  あいた〜い すごく逢いたいよ

  逢いたいよ 逢いたいよぉ


今脳内にひたすら流れているこの歌

この創り歌ったジリーさんの葬儀に向かう

憧れは恋心に似て別れは辛く悲しい

でもこればかりはどうにもならない事

逢いたい すごく逢いたいよ〜












  

  

『ありがとうございました』

お客様を降ろしたのは扇橋一丁目

(近いから顔出してこようかね)

病に伏せった師匠の家に行く

『あらコバちゃん 仕事中? あまり良くはないけどまだ大丈夫よ』

癌に倒れ意識もない事は聞いていた

『おはようございます コバっす』

《ようコバ お疲れさん》

あの暖かい声が聞こえるような気がする


『私たちもね 24時間は無理だからね』

家族でも親族でもない 近所の方々はバーの常連でもあり皆顔見知りだ

『お世話かけます よろしくお願いします』

もう一度ベッドルームを覗くと 

彼は カッと目を見開き空を見つめていた

『コバ帰ります お疲れ様でした』


それから数時間後 彼のバンド《ドロップトラップス》のギタリストから連絡が来た

『今関越道なんだけど20時過ぎ見舞いに行きたいな』

家がわからぬと言うのでバー前で待ち合わせする事にした 家の鍵を持つ近所の方に説明すると鍵を開けておいてくれると言う

ギタリスト夫婦と向かう ノックをしてドアを開けた

ご近所さんが俯いた顔の前で片手を振った


ベッドルームに駆け込むと数時間前とは全く違い

血の気のない老人の顔

『ジリーさん』

触れるとまだ体温の温もりと柔らかな感触

でも呼吸も脈も止まっていた

振り向くと呆然と立つギタリスト 隣で奥さんが泣き崩れた


ギタリストと煙草を吸いに外に出る

緊急招集を受けた顔見知りが続々と駆けつける

そう彼はこの気風の良い下町の中で生まれ育ちそして旅立って行くんだな

『幸せな人ですよね』

『羨ましいくらいだよね』

2人して煙草の煙の中に人懐っこい笑顔を見ていた

訪問看護医が来て死亡時刻を午後9時15分とした後 俺たちはお暇した


車に戻り回送から空車に戻すが 頭の中は惚けたままだった

日本橋や銀座の灯りがすべてステージ照明の様に彼の思い出を映し出し歌声が頭にグルグルと回る

空がジラジラする頃やっと正気に戻り営收の悲惨な事を認め午前10時過ぎまで頑張って平均オーバーを確認して納金した


すぐに下町へマイカーで向かう

『もうお寺に安置したよ』

広い安置室に横たわる

彼の亡骸は最後のステージで着ていた衣装

赤のフリルブラウスに黒いジャケット

(ジリーさん ロックンロール葬で送り出すからね)

線香をあげて『ありがとうございました』

声に出して頭を垂れた


通夜葬儀追悼ライブの打ち合わせをして解散した