5回裏、連打で1点を失い3対0だ。
「江口水掛けろ」
「押忍」
バケツの水を学ランの上から浴びる。

「こっちも頼む」
団旗と一体化した田辺の静かな太い声にバケツの水がキラキラ光ながら舞った。


6回 ショート河合のファインプレーでまたなんとか0点に抑えた。

《ドン》
「応援歌第三~力の限り~」
《ドン》
「全員ご起立願います」
剣崎が促し、江口が歌詞カードを配りに走る。
伝統のラッキーセブン応援だが《力の限り》を歌える学生はもう少ない。


トランペットの音を背に左手をグランドに伸ばし右手の拳で突きを繰り返す。
(頼む打ってくれ)
過去2年 この力の限りを歌い終わる前に攻撃が終っている。
《キーン》
快音は歓声に掻き消されたが、白球はセンター前に転がった。
「それ~っ」
一瞬コンバットマーチに変更しようかと思ったが応援歌を続行した。
《コツ》
山田のバントは絶妙だった。 一塁クロスプレー、土煙が舞い審判の手が広がる。
純白のユニホームに染みた土の勲章を拳で叩く。
「我々は~力の限り~この戦いに~勝利する事を~・・・」
ムッとする熱気のなかに俺の声はこだまして、 一塁側スタンドが今確実にひとつになった。


城南が先発の背番号10をマウンドから下ろし、エースナンバーが投球練習を始めた。
『フレ~ッ フレ~っ ト・ウ・ヤ・マ ソリャ~~~』
《ガッ》
ぼてぼてのゴロをエースが捌きダブルプレー、そして三球三振で締められた。


その裏、明らかに疲れの見えた水沢から 駄目押しとも言える2点が、グラウンドの中を走っていった。

8回表、クリーンナップの登場だ。3番の瀬川は今日も無安打。ネクストサークルに控える水沢が天を仰ぎ歯を食いしばった。
『カッ飛ばせ~瀬川』
『カッセ瀬川 カッセ瀬川』
11球粘って執念の四球を選んだ


『コンバットマ~チ』
スタンドの学生がスクラムを組む
俺たち三人は、水沢に拳を向けて突きを送り続ける。
(打て水沢)
バットが回り、白球と歓声が青空に溶け込んだ。


9回表、逆転劇を演出してくれるほど、勝利の女神は甘くはない。


団旗が下段にされて田辺の膝がガクガクと震える。
俺たち応援団員は後ろ手に組み低頭の姿勢で相手の校歌を聞いていた。
江口がしゃくりあげている。
俺の足下にもいくつもの感情がコンクリートにシミを作っている。
校歌の後、三塁側が歓喜の歓声に包まれる。


俺はゆっくり振り返り最後の声を張上げた。
「城南学院の勝利を称え~決勝戦での~健闘を~祈願し~エールを贈る~」
《ドン》
「全員起立っ」
剣崎の声が裏返る。
《ドン》
大畑の顔もくしゃくしゃだ
《ドン》
田辺が歯を食い縛り暑さと疲労に顔が歪ませながら、団旗を再び上段に掲げる。


「このエール、江口お前がやれ」
「押忍」
伝統の型《勝者へ送る》だ。
「フレ~フレ~城南」
力強く白手袋が灼熱の中に舞う。
(良い型だ)
俺は肩幅に開いたままの足で回れ右してグランドを向いた。


グランドに整列した水口が泪を拭いて笑う。
(よくぞやった。強豪相手に5失点完投ナイスピッチ)
そして8回表のツーランホーマーは最高だった。
『フレッフレッ城南フレッフレッ城南』
三塁側から拍手が湧き起こる。


カンカン照りの太陽の中、俺達の夏が終わった。
『フレ~フレ~フレ~ッ』