30年 それは一体どのくらいの時間なのか
人間を含めた動物でも30年の寿命を超えるのは
そんなに数は多くないほどの年月である

そんな年月を超えて色づく事もあるものなのだ
色付けしてくれる相方に恵まれたことを感謝
発表する場がある事に感謝 まだまだやれることはある




19歳の少年がいました 親元でまだ世間も知らない
井の中の蛙は猛暑に温むバケツの中で汗をかいていました
(何とかしてあのバケツの淵に足が届かないものか)
一方でバケツに溜まった汗と涙を懐かしむこともありました


前の年の今ごろ 少年は早熟な青春を謳歌するが如く
手の中にいた愛したつもりの女の子を連れ回しては
たらればの近未来を語らせて悦に入ったのでありました
(青いカーテンがいいわ)(私も働いていたいな)(愛してる)


どんな馬鹿な質問にも返す波の如く囁かれる彼女の言葉
部活部活の毎日で楽しみはそれ以外に無かった少年に
その言葉は甘美であり手の届きそうな現実に見えていました
(ねぇ進学するんでしょ受験どうするの)(今からでも頑張れば)


18歳 女のほうが確実に世間を見据え現実を知っておりました
何とかするし何とかなるさと嘯く男の言葉など絵に描いた餅
その数ヵ月後に『さよなら』と何時ものように別れたまま
少年は彼女と二度と話すことはなくなりました


また夏が来て畳の上に寝転がり庭先の垣根を眺めております
(馬鹿野郎が)誰に吐いたかわからない独り言を呟き
浪人生と云う名目の自分の未来を 日差しを避けて垣根に隠れる
雀のつがいに被せてもやるせなく 外に出ることにしました


真上から照らす太陽に逃げ場すらない路上をてくてくと歩く
微動だにしない熱い空気が汗をかいた半袖の腕に絡みつく
ジージーとセミは鳴き静まり返った住宅街にも陽炎がたつ
こうしているのがすべてを忘れられる時間だと知っていました


行き着いた処は幼い頃によく釣りをした川でした
田畑は住宅となり崖も整備されコンクリートの護岸を歩くと
突如昔のままの林に突き当たります 薄暗い林の中には
幾筋にも木漏れ日の筋が伸び懐かしいより神秘的に見えました


蜘蛛の巣をかいくぐりながら小さな林を抜けていくとそこは
あの頃見たままの緑を写した蒼い川 川べりの草むらに
寝転がって持ってきたハイライトに火をつけました
(まだ吸ってるの体に悪いよ せめてセブンスターにしなよ)


汗ばんだ身体は水辺の風に心地よく冷まされて行きました
煙が光の筋に溶け込むのが面白くて飽きもせずに煙を吐きます
せせらぎは魚の匂いを載せて耳と鼻を刺激して少年は埋没していく
その夏何度も少年はその人気のない場所に通ったのでした


夏の終わり『珍しくやってるな』父親に声をかけられたくらい
集中して机に向かう少年がおりました 広げたレポート用紙に
拙い言葉を羅列してとにかくこの夏 この夏で大人になろうと
家中が寝静まると ぽろんぽろんと弦を爪弾く少年でした



$俺の声4(歌う不動産屋は夢の中)