「いくよ ワンツースリーフォー」「あれもしたいこれもしたい・・・」
緊張で旨く声が出なかったが友人の顔が勇気をくれる
振り返りゲンのドラムにテンポアップを控えめに指示した
音と声が共鳴し始めリズムが嵌り旋律だけが揺らぎ始めた


腹に響くパワフルな低音からそのまま高音域への伸びは
気持ち良く 更にコピーではない独特の旋律が心地よい
サードとゲンが鮮やかにその旋律の上を走りリンクしていく
浩二のベースが少し遅れ気味だがそれでも自然と笑顔である


「っとしたい~・・・ありがとうございました気持ちイイ~」
紺色のボア付きジャンパーと云う鉢からスーッと延びた百合が
花開いたような瞬間でもあった 演奏者にお辞儀するマリ
それを茫然と見る3人 圧倒的である「自由曲は何?」


「フレンズ歌います あっキーボード借りて良いですか」
生き生きとセットし始めるマリを見ながら3人はPA室に戻った
「うわっノリさん久しぶりっす」「なんやあの子え―な~」「・・・」
挨拶もそこそこにスタジオに視線を送るが浩二だけが複雑だった


「アーアーいいですか?」「いいよ始めて」4人の男が見守る
浩二だけが則夫の背中を見て自分の居場所に戸惑っている
マリの友人がスタジオの隅に居る その隣に光世が座ってる
誰にも声を掛けられない二人の男が廊下の椅子で項垂れる


バラード調にアレンジされたマリの歌声がスタジオに充満して行く
「何処で壊れたの・・・」腹式呼吸から生まれる声は血液のように
PAルームや廊下までもに温もりを伝えていた「行くか」則夫が言う
何かを決意したようにサードとゲンが続いてスタジオへ入る


「浩二良く聞いておけよ おい お前らも中で聞いて良いぞ」
ワンコーラスが終わり血液で繋がれたような4人の目線が一致した
則夫がピックで弦を叩く サードがギターを煌びやかに被せて行く
控えめな入りで正確なリズムをゲンのドラムが刻んで行った




スピーカーから残り香のようなハウリングだけが聞こえている
スタジオもPAルームも余韻と云う空気の中に酔いしれている
「OK決まりだな」カンタの声でようやく蛍光灯の灯りが戻り
全員が拍手した「良かったよ ようこそ」マリの眼は濡れていた


パワーだけを売りにしていた《トラブルメイク》は此処に消滅し
新しい名前を考えなければならないとゲンは感じていた
ギターが目立てばいいと思っていたサードが照れ笑いを浮かべた
内心から出る本物のの叫びを聞いて2人の男は会釈して去った


「お前はどうする」浩二に声をかけたカンタが煙草に火を付け
「暫く修行して言ったらどうだ」浩二が頷いた「いいぞこいつらは」
マリは光世とその友達ともう女の子に戻って話しこんでいる
「ねぇサード 同い年だよ私達」スタジオの成人式が成立していた