「おはようございます」「やぁ おはよう」 毎朝のことだが
このフロアーの女子社員は周り道をしてでも修の前を通り
挨拶をかわしたがる そうしなくては一日が始まらない
その人気は端正な顔と187センチの長身のせいだけではない
「今日はキマッてるね~デートかい」などと一般人が言ったら
セクハラにも捉えられかねない軽い言葉も彼の口をついて出ると
全てが褒め言葉になるらしい 軽口を掛けられた女子社員は
良い占いを聞かされたようなウキウキした顔でデスクに就く
後藤修 35歳 茨城県出身 既婚 現役で慶應大学に進み
バスケ部でキャプテンを勤めハーバード大学へ留学しMBAを取得
イギリス人の嫁を連れて帰った時実家の両親はブロンドの髪に
驚いて直ぐさま《ノバ》へ駅前留学したと云う 子供はいない
都市銀行を経て今のコンサルタント会社にヘッドハンティングされた
見当たらない欠点までもを魅力にしてしまうそんな男である
親戚中から《瓢箪から駒》《トンビが鷹を産んだ》と言われ
卒業した学校は口をそろえて『天才いや神童である』と称された
彼には弟がいる 聞かれない限りは双子であることは言わない
だから皆弟がいる事は知っていてもさして気にする事も無く
そして物心ついた時から修は引っ込み思案な弟が好きではない
弟が足元に影のように張り付くのが鬱陶しくて堪らなかった
父親は長男の名は修【オサム】決めていたが二人分が必要だ
(修が一番良いんだが)そう思った時弟の名前は【シュウイチ】に決り
どちらが兄か悩んだと云う親戚は後から出てきたのが兄と云い
役場と医者は先に出てきたのが兄と云うがどうしたかは忘れた
「部長・CEOがお呼びです」「ありがとう」彼は分厚いファイルを抱え
週明けの報告に颯爽と役員室へ向かう彼の足元はスニーカーだ
『動き易いし疲れないからね』当然の様に社内中に流行っている
「失礼します」「やぁおはよう」CEO柳田光男の足元もスニーカーだ
「例の件はどうだやれそうか」「はいあと数社纏めればバルクで
ここまできたら無理にでも纏めますよ来週浜松神戸に行きます」
「そうか任せるよフィーは」「円高が心配ですが目標には届くかと」
柳田はホワイトニングされた歯を見せて笑う その笑顔が修は嫌いだ