此処は私の日記帳 好きな事を書けばよい
嫌がる理性とは裏腹に膨らんで行く物語
書き出したい みっともない 彷徨う感情の中
そんな時に限って他のネタが無い《サード》を書く




涙で霞んだ瞳に写るのは鉛色の雨雲だった
背中では忙しなく発着する電車と人の流れる音
雨降る都会で既に心細くなって振り向けずに居ると
携帯電話が鳴った「はい」「おぅ俺だ待たせたな」


中学の野球部の先輩はエースで4番甲子園常連の高校へ進学
肩を壊し退学夜間高校へ行きながらバンド活動をしていた
リーゼント姿で奏でるギターはパワフルで地元では【布袋賢治】等と
呼ばれるサードたちの憧れであった『彼も東京で勝負だ』と


都会にしては貧弱な改札口を出ると賢治が立っていた
「久しぶりだなサード」茶髪にスーツ姿でほっそりと見えた
まゆ毛の痕跡が無ければ賢治さんとは分からなかった
「賢治さんあが抜けちまっでぇ」それでもホッとした


「びっくらしたぞ家出するから泊めてくれなんで」
「すいませんよろすぐおねげェします」「まいいが」
雨の中コンビニの小さなビニール傘を濡れるためにさした
道すがら夢ばかり語るサードにただ笑う賢治である


「まぁそんなうまぐいがねからとりあえず暫くは此処で」
大きな十字路を右に渡り暫く行くとビルとビルの谷間に
まるで忘れ去られた空間のように2階建の木造アパートがあった
「一階が大家一月21,000円俺の部屋だけど今住んでねぇがら」


「先輩は何処に」「まぁいいべおいおいな」「俺どうすれば」
「月末に家賃払えばいいよお前の事は話してあっがら」
「先輩は・・・」「おっ時間だ忙しくでよ後で電話すっがら」
それだけ言って立ち去った賢治の後姿を茫然と見送った


一段上がるごとにサビの落ちる危なっかしい階段を上がり
直ぐのドアを開けるとカビ臭いより異臭に近い 窓を開ける
ザーザーと音を立てて降る雨とそれを踏みつける車の音
それでも冷たい風が少しは臭気を流して云ってくれた


電気を付ける四畳半の畳みにいい加減に畳んだ臭そうな布団 
小さなTVとラジカセそして先輩自慢の黒いフェンダーのストラトキャスター
サードはやっと先輩に会えたような気がして畳に座り手に取る
《ジャラーン》親指でならしてみたがチューニングはされていないようだ


それ以上に弦は錆びて黒ずみボディーも色あせて埃まみれ
「使っでねぇな」弦が切れないように慎重にペグを廻したが
案の定2弦が《プン》と弾け切れた時 携帯が鳴りだした
【小林】家からである 03NO以外は出ないと決めていた


窓の外は何時まで経っても暗くならず雨と車の音ばかり
(ジェニーにメール・・・》これも暫く辞める約束だ(どしたらいいべ)
崩れそうな布団に寄りかかり弦の切れたギターを抱えたまま
途方に暮れているとまた涙が頬を濡らす16歳のサードだった


いつの間に眠っていたのか携帯電話で目が覚めた(先輩だ)
「はい」よう汚ねぇ部屋だろ」「いや」「ハハハ汚ねぇよ」
「あの」「いいからさっき来た道で駅に行って池袋まで来い」
「え」「いいから歓迎会だそれと制服は着替えて来いよな」


「先輩もう12時です電車なんか」「ばーがここは東京だぞ」
「はあ」「いいから来いよ」「わがりました池袋ですね」
「そうだ服無ければ押入れに入ってるの何でもいいから」
抱えていたギターを壁に置き着替えてまた濡れた雨の街へ出た