♪いつの間にやら外は雨のようだ

   今夜はもう店を閉めて

   愛する女の待つ場所へ

      ほんの少しは 早足で♪


by 吉田拓郎


夕方予約キャンセルの電話が入った

嫌な予感はしていた『お茶っぴき』である

今日は玉子を落とすし給湯器は壊れるし

それでもイラつかずに対応した揚句これだ


磨き終わった一つのグラスに氷を落とす

ラベルの禿げたジャックダニエルで満たす

忘れ物の煙草を1本咥えマッチで火を付ける

外は横殴りで暴力的にも見える今夜の雪だ


ボブ・マリーのレコードが終わりノイズだけが残る

秒針のように刻む一定のリズムが心地よい

「あいつどうしたのかなぁ」半年間毎日来ていた

常連が1週間前からパタリと消えた


レコードを仕舞いCDチェンジャー3番を入れる

【茶色の小瓶】に始まり【A列車で行こう】

で終わるスタンダードナンバー11曲 千円で買った

(A列車まで誰も来なければ閉めよう)決めた


【テイク・ファイブ】で4分の5拍子で戯れた後

携帯が鳴る[非通知]の文字 月に何度か

かかって来るが出ると必ずすぐ切れる

無音で震える携帯電話がカウンターで踊る


踊り疲れた携帯を開き履歴を見る[非通知]

色々な顔が液晶画面に浮かんでは消える

「名を名乗れ 名乗らねば斬る」

読みかけの時代小説のセリフが口を突く


(独り言なんて 歳を取ったもんだ)苦笑いする

そう思った事も口が動いたかもしれないのだ

【A列車】が始まった 店仕舞いを始めよう

仕舞わなければ明日は始まらないようだから


♪悪くない 悪くない 皆いい女だったから

  悪くない 悪くない 皆いい男だったから♪


《調子が出ませんねぇ・・・》
俺の声(不動産屋と主夫と歌)

スマン