♪暗い女の部屋でマヌケな肌を晒し

  覚え始めの味でうなじを真っ赤に染めて

    世慣れた嘘も付けない頃は

           色気の中で我を忘れた♪


by 桑田 圭祐


22時JR池袋駅北改札を抜ける

冷え込んだ景気とは云え土曜日の夜だ

東口から大量の人が階段を流れてくる

地方の通勤ラッシュより遥かに多い人込み


流れに逆らい縫うように階段を上る

コンコースに溜まり話す人々は女性の方が多い

酒と香水と体臭に軽い目眩を覚えながら

地上に出る 雨は上がっているようだ


正面に見えていたデパートの重厚な外観は

安物のボードで囲われた味気ない店となり

左側では価格競争を声高に張り合う店員の声 

私には罵り合い方が人間らしくていいのだが


線路沿いに一つ路地を入ると喧騒は去り静寂

行きかう人種が変わりやっと(池袋だ)と感じる

《かぶらや》はそんな道沿いに小じんまりとある

間口は狭く鰻の寝床のように奥へ長い立呑み屋


焼酎をビールで割った通称爆弾と1本80円の

串焼きホルモンを何串か頼む カウンターはほぼ満席

連れで来ている者はいない 夜に放り出された

野郎どもが黙々と呑み食い一人ごちる


「誰に物云ってんだこんにゃろ~」「まぁまぁまぁ」

ちょいとしたイザコザがあるのもこの店の名物

ろれつの回らない売り言葉は哀愁さえ感じる

「埼玉って田舎だよね」彼は唐突に声をかけて来た


「・・・」明らかに酔っている彼と話す程酔えていない

世代は同じくらいか「ねぇ田圃ばっかでさぁクククッツ」

何処の埼玉を言っているのか?構わず爆弾を煽る

「俺さ砂町なんだけど砂町より田舎だもんなぁ」


心外である確かに砂町23区内江東区の下町だ

しかし埼玉県川口浦和大宮川越駅前を比べたら

10人中6人は埼玉の方が都会だと言うだろう

「そうそう小江戸って町あったよね」そんな町は無い


私が相手にしないので焼き台の店員が替わって

「有名ですよね」「そう小江戸に行きてぇんだよな」

「大宮ですね良い所ですよ」おい店員そりゃないぞ

小江戸は川越だ「小江戸って江戸か・・エドエエド」


気を利かせた店員が笑って見せ「はいテッポウシビレ」

焼き物を渡すその眼には(少しは相手してやってよ)

串焼きを爆弾で流し込む「黒おでん玉子と白焼き」

「おぉぃ兄ちゃんこっちにもタマゴっち~」機嫌が良い


結局相手をすることも無く爆弾2杯と串4本とおでん

最後に辛子を利かせ過ぎ涙目になりつつ玉子を食べ

すると隣の彼が突然しゃがみ込む 頭を押さえたまま

「お客さん大丈夫ですかお客さん・・・」店員が駆け寄る


一瞬静まった雰囲気を背にレジへ向かい「おあいそ」

「へい少々お待ちを」店員が彼の背中さすっている

無駄だ全くの無駄だ介抱の必要などかけらもない

それなら(おでん)に付けている辛子の量を減らせ


話し相手が無くおでんの玉子で皿の中を弄び

大量の辛子が付着して黄色くなった玉子

彼がそれを一口でいった事を私は知っている

1,260円池袋の夜は安くてうまい クソッまた降って来た


♪真夜中のダンディー・ダンディー誰が待っている

   悲しみのダンディー・ダンディー過去にすがるBrother

    ふりそそぐ太陽が あぁ 影を呼ぶ

     愛しさを知るたびに あぁ 老いてゆく

      また一つ消えたのは あぁ 愛だった♪


《辛っ~》
俺の声(不動産屋と主夫と歌)

この街は安全です 宣言すればするほど

女子供が増え 水面下の犯罪は増える

池袋の裏路地も随分明るくなったものだ

それでもキャッチ 立ちんぼ 売人と

懐かしい緊張感が少しは味わえる


こんな夜のBGMにはこの曲は最適だ