♪こんな風に過ぎて行くのなら
いつかまたどこかで何かに出会うだろ♪
by 浅川マキ
彼女から来た最後のメールの日付は
もう一年以上も前になる三行ほどの短い言葉
お互い連絡無いってことはうまくいっている
そんな暗黙の了解 そんな友の形もある(参1)
「もうダメ 耐えられない 今夜は付き合ってよ」
20代で誘われれば嬉しくもあり意味深な言葉
40にもなるとなんだか重たそうで戸惑う言葉
「今夜はそっちに泊まるから部屋取っといて」
彼女はバツイチの既婚者 旦那は7つ年下
子供は前の旦那との2人娘 もう二十歳になる
立ち回りうまく明るく賢い長女と
リストカットを繰り返す悩める次女
若い父親は一生懸命父らしくはするが
やはり兄貴以上父親以下 難しい関係だろう
その旦那もネットゲームとコミュニティに嵌り
細腕の彼女が家族の吹き溜まりを請け負った
電車で1時間 彼女は何を考えて上京したのか
何を求めて私に逢いに来たのか
知る由も必要も無い私が駅に彼女を迎える
「久しぶり いつぞやはどうも 何処で呑もうか」
「お酒やめたの 一度荒れちゃってね 娘に
それからやめた あ 呑んでいいよ 私は無理
とりあえずホテル何処? 荷物置きたい」
「家出か?何が入ってる」「仕事よ し・ご・と」
無機質に小奇麗なビジネスホテルにチェックイン
その間喫茶店で待っていた 感情を平らに均す
夜用の服に着替えた彼女は独身女性のようで
「じゃ エスコートして貰おうかな 夜景がいい」
高層ビルの53階ラウンジ 東京夜景一望だ
再会の乾杯 彼女の細い手首には タトゥー
「ああこれ 娘の名前彫ったの 変かなぁ」
その愛情表現に戸惑いながら苦笑いの私
「奥さん元気 こんなとこ見たら怒るかなぁ」
「ああ怒るね 前々から疑っているんだから」
「何にも無いのにねぇ なんか起こしちゃおうか」
悪戯に微笑む彼女の笑顔はあの頃のままだ
「30年か ね 知り合ったの10歳だもの
1年に一度も逢わなかったのは2回位よね」
「そうか 逢わない時は何年もあったような気が
なんかなけりゃ逢わないからな 面白れぇよな」
「わたしさ こんな風に時間が過ぎて行った事
不思議で仕方が無い 何で何にも無かったの」
「しかたねえだろ 俺はお前にフラれたんだから
それだけのことだ 長かったなぁ30年疲れたよ」
瞬く夜の光に暫く目を落とし唇を潤す程度に呑む
ガラスに移る彼女も眩い夜の中に何かを見てる
誰よりも知り尽くしたようで実は何も知らない二人
そんな風に過ぎて行く 二人の時間はそんな風に
カシスソソーダの赤と琥珀色のバーボンとピアノの音色
気が付くといつの間にか彼女の眼は壊れていた
押し殺した嗚咽を肩で受け溢れでる熱い涙
グラスの中の氷を回しながら私は無視をした
♪今夜ほど寂しい夜は無い
きっと今夜は世界中が雨だろう♪
今日《浅川マキ》のお別れの会
行けないと思っていたが突然新宿へ仕事
時間無く路地2本分遠回りして一人追悼
ドアの前で思う (行ってらっしゃい)
数人の参列者はすんなり地下へ入る
アングラの女王はひっそりと地下へ出掛けた
参1)2009・12・01 SION 12月
