♪大事な話が君にあるんだ

   本など読まずに今聞いてくれ

  僕たち何年付き合ったろうか

   最初に出会った場所もここだね♪


by 吉田拓郎

   


 彼女の瞳はまるで少女のように 邪気のない好奇心に溢れていた。 今はその瞳に入り込む光と色が つい先程までいた浦安の夢の国の残像と混ざり合い、時間の流れを遮断しているようにも見える。 高円寺サザンクロス、10人も入れば窮屈であろうその店内は香ばしい焙煎珈琲の匂いがマスターの気分で流されるジャズピアノと溶け合っている事だろう。 蔦に覆われた二階建の建物を早すぎる雪が染め始まっている。 蔦の葉の隙間から漏れる窓の明かりのなか、確かにそんな彼女の視線があった。

 

 そんな彼女の視線の先には何もないことを確かめるように振り返り重たい木製のドアに手をかける。後ずさりしてもう一度窓の中を遠目に見る。切り取られた写真の様な窓には僕と彼女の温度差を区切る透明であやふやなガラスがはめ込まれ、その向こう側に彼女はいるのだ。僕は自分の住むアパートの家賃より高い駐車場に車を置き店まで5分の道のりで どうやって切り出すか 別れ話を考えあぐねて来た。


 ドアを引く、 カランカランカラン カウベルが鳴り珈琲が香り その後にオスカー・ピーターソンのピアノが僕を迎え入れた。窓際の席から彼女の視線と共に。


♪だからバイバイラブ 外は白い雪の夜♪


2009 2・13 雪の朝