※三毒様?とりヘビ様?どちらにしろ最高の芸術作品であることに変わりはない。(貝塚カメラマン撮影)

 

先日放送されたテレ朝地上波、「独占密着!ドキュメンタリー羽生結弦RE_PRAY」は、本当に神番組だった。

正月気分も抜けない日曜の昼下がり、何気なくテレビを見ていたお茶の間一般民の衝撃と興奮がSNSからも伝わってきた。

「良いものは良い!」「美しいものは美しい!」、先入観のない一般民の感想は正直だ。

今回の放送は舞台裏のリハや単独インタビューの映像が多く、羽生選手が演技を極めるために、骨身を削って努力している姿がダイレクトに伝わってきた。

 

昨年10月に、メンシプ動画の

<陸上"Goliath"(ゴリアテ)>を鏡の前で演じていたが、あれはMIKIKO先生の振り付けを猛特訓した成果であろう。

動画には、

<”鼓動”"進化""掴み取る""身体活動の自由">等の小さなアオリがあったが、確かにダンスを学ぶことで羽生選手の

"身体活動の自由"は増幅し、魅せる技術も深まった。

今回の放送でMIKIKO先生振付の『鶏と蛇と豚』は、これまでのフィギュアスケートにはない直線的な動きが特徴で、固定概念を覆す斬新なものであることを知った。

 

※真っ赤な直線をぐいぐいと進んでくる三毒様、立体的な映像も素晴らしい。

 

斬新と言えば、慣れない空間でジャンプの感覚をつかむために、目を瞑って氷上で練習するという映像を見たときは、ひっくり返るほど驚いた。

SNSでも「羽生はついに心眼を開いたのか?」などと騒がれていたが、自分は反射的に『ガラスの仮面』の主人公、

北島マヤを思い出した。

※ヘレン・ケラーの役を射止めるために、目隠しをして生活をする壮絶なマヤ。『ガラスの仮面』より。

「ゆづる---恐ろしい子---」こんなセリフが違和感なく当てはまるアラサー青年がいるなんて、事実はコミックよりも奇なりである。

 

今回の放送は、普段フィギュアスケートを殆んど見ない、ゲーム愛好家たちからの反響が大きかった。

その一方でMIKIKO先生が、

「多分私があの一般代表として、ゲームを知らない人代表として見て、わかるものをまず作ったらいいのかと思っている---」という言葉が強く印象に残った。

流石はMIKIKO先生、ゲームオタクであっても、なくても、羽生選手の演技を見れば芸術作品として感動する、それが

真理なのだ。

 

"RE_PRAY"はゲームの世界観で構成され、「命」が重要なテーマの一つであることを、羽生選手がインタビューで語っていた。

重いテーマだが、ゲームの中で敵の「命」はプレイヤーによって自由に操作され、気に入らなければ何度でもリセットされる。

小説やアニメは作者からの投げかけを一方的に受け取るという、言わば「受け身」であるが、ゲームの世界ではハッピーエンドにでも、バッドエンドにでも自由に書き換えることができる。

無論それはプレイヤーの幻想であり、プログラムに組み込まれている幾つかのコンテンツにすぎないのだが、敵やモンスターの命を自分が握っていると万能感は、潜在的な破壊願望やヘイト意識を刺激するというリスクもある。

これは、今回自分が生まれて初めてプレイしたRPG、

"Undertale"を通して感じたことでもある。

 

※昨年の「メタバース六本木」で公開された

"MEGALOVANIA"は「アンテ」ゲーム愛好家に大受けし、TLはスケートをするサンズのイラストで溢れた。

サンズの由来はフォントのComic Sansからきている。

(写真内のメガロバニアのフォント)

サンズの弟パピルスも、古代文字風フォントPapyrusからきている。

(写真内のアンダーテールのフォント)

 

"Undertale"では「ケツイ」という言葉がキーワードとして使われている。

ゲームの制作者トビー・フォックス氏は、

「ケツイ(決意)を持つことは生きる上で大事なことだが、必ずしも善ではない。あまりにも固すぎる決意を持った人は、たった一人で世界の未来を変えてしまうかもしれない。

そんな力が果たして良いものか悪いものなのか、これはだれにも分からないことでしょう?」と述べている。

今の狂ったような世界情勢を見ていると、トビー氏の言葉がやけに骨身に染みる。

 

正月前、風邪で寝込むほど熱中した"Undertale"だが、基本のNルートを何とかクリアし、先日遂に平和主義のPルートもクリアできた。

※Pルートの平和なエンディング。

 

虐殺のGルートは少し試してみたが、自分はゲーマーではないし、暗くて陰惨な内容が楽しめないのでプレイをやめた。

従って人気の「サンズ戦」はまだできないが、

"RE_PRAY"で羽生選手が演じる"MEGALOVANIA"を見ているだけで十分満足である。

※羽生選手はゲームをとことんやり込んだのだろう。

 

次は"Undertale"のトビー氏が強い影響を受けたという

『MOTHER』シリーズをやってみたいと唐突に思い、甥に古いファミコンとソフトがないか探してもらっている。

つまらない人間が暇でいると碌なことをしないという例えに、「小人閑居して不善をなす」という諺がある。

自分の場合はさしずめ、「小人閑居してゲームをなす」という類になるだろうか。

 

今回の放送中に能登半島の地震速報があったこと、羽生選手の『天と地のレクイエム』が演じられたことは、偶然とは思えない気がする。

羽生選手の祈りは、きっと天にも届いたと思えるのである。