そいつは恐る恐る黒い液体の入った蓋をとった。
容器の中では小さな気泡が出来ては上へのぼり、そして弾けて消える。
そんな幻想的な現象に僕は今置かれている状況も忘れ見入っていた。
「用意はいいか?」
その言葉に僕は現実に引き戻され、そいつの顔を見てゆっくりとうなづいた。
そいつの顔は緊張しているようで、それでいて今緊迫した状況を楽しんでいるようにも見えた。
チャンスは一度きり。
少しでもタイミングがズレればこの作戦は失敗だ。
ターゲットは朝起きるとまずベランダに出る。
そして伸びをして「おはよう、小鳥さん」と爽やかな顔で小鳥に挨拶をする。
置物の。
あいつはきっと今日も朝起き、窓を開け、ベランダに出て伸びをし、そして置物の小鳥に爽やかなあいさつをするだろう。
俺は昨日の夜、何度もイメージトレーニングをした。
こいつが容器の中にあれを入れる。
そして絶妙な強さで蓋をする。
それを俺があいつの部屋へ投げ入れるのだ。
あいつの慌てふためく顔が目に浮かぶ。
「時間だ。」
顔はあいつの部屋を向いていて見えない。
だがこいつの顔は真剣に違いなかった。