気がつくと、私は魂の存在となっていて、あの世にいました。
自分がどう状況なのかを把握するのに、まず「あかね」としての体を確認しようとしますが、
「あかね」の体を辿ろうとしても、どうしても上手くつながりを見つけられません。
魂としての自分がいるこの場所は、とても高く遠いところで、普段は立ち入れないような魂の領域に来てしまっているのだと悟りました。
「やばい」「どうしよう」「どうして?」
色々な方向にアンテナを向けて、今の自分の状況を把握しようとしますが、上手く知ることができません。
もしかして、「自分では気がつかないうちに死んでしまったのでは?」と、最悪の可能性まで考えを巡らせました。
寝ているときに一瞬で息を引き取ったのであれば、気がつけなかったり、混乱することがあります。
自分は今まさに、そういう状態なのかもしれない、冷静にならなければと周囲を見渡しました。
真っ白のこの空間には誰の姿も見えなくて、ですが不思議なことに、この場所があの世であることも、
生きているときには滅多に行くことが叶わないくらい、高いところへ来ていることが伺えました。
「そうだ」と思い直して、この世のほう見てみると、
「あかねの夫」だった人と同じ魂の人物が男性として、やはりこの世にいるのが見えました。
その男性にそっと近づいてみると、やっぱり首を傾げたくなります。
自分の覚えている「あかねの夫」の姿と、ぴったり一致しないような気がしたから。
ですが、男性の魂だけをよーく見つめると、何度も魂の輪廻で夫婦を経験してきた本人そのもの。
もしかして、これは魂の過去世の記憶か、
または自分の記憶が混乱しているだけで、今世の未来か、
それとも、輪廻転生後の未来世を見ているのか?
色々な可能性を考えましたが、同時にその答えは「今は教えてはもらえない」ことも分かりました。
仕方がないので、その男性の様子を見ていると、膝をついて泣いていました。
今まさに、私を見送ったところだったようです。
男性が、とても深く私のことを思ってくれていること、本当に悲しんでくれていること、そして魂の絆がとても深いことが分かりました。
死後すぐでも、自分がこんなにも魂として活動できていて、魂の能力が自在に使えていることに、不思議な気持ちになりました。
この世を卒業したりあの世へ帰ることは、生きている人が考えるよりも、「普通」のことなのだなと思いました。
男性は悲しみの中で、私へ色々なことを伝えようとしてくれました。
彼は見えない世界を見ることはできないけれど、死後の世界を信じています。
私が隣にいることを彼の意識では認識していませんが、彼は「私が隣にいる」と信じて話しかけます。
彼は手元にあった熟れた桃を剥きながら、私が桃を好きだったことを思い出していました。
故人がこの世の人を通して食べものの味やエネルギーを受け取れる、という話を聞いたことがあった彼は、自分を通して「食べて良いよ」と言いました。
彼の思いに、私はほかほかと満たされた気持ちになりました。
さらに、「自分の体を通して食べて良い」と彼が言ったことで、私は「ぜひやってみたい!」とノリノリに。
そこでとんとんと、私の肩を誰かが叩きました。
振り向くと、星になったおじいちゃんでした。
おじいちゃんは、首を横に振り、「やめておきなさい」というしぐさを見せます。
「せっかくだから経験してみたい」と言う私に、
「自分があちらの立場を経験して、しんどかっただろう?」と言います。
「お前はそういう体質だったし、何度も経験していて慣れていたけど、
彼にとっては、とてもきついことだと思うよ。」と諭され、ハッとしました。
そうでした。
家族のためだからと私も頑張れたけど、そのあとはぐったり。
「もう勘弁して」というほどに、消耗する行いなのです。
だから、彼の優しい思いと、桃のエネルギーや味や香りは、彼の背中からじんじんと染み出してくるエネルギーから受け取ることにしました。
これだったら、生きている人の負担にはなりません。
アロマを香るように思いやエネルギーは受け取れ、香りは人間の嗅覚と全く同じに遜色なく、そのままのフレッシュな香りでした。
それでも疑念が晴れないのは、今の私の状況です。
今の私の魂は、一体どの時間軸にいるのでしょうか。
魂は、時間や場所の概念から解き放たれます。
魂が行こうと思えば、未来にも過去にも簡単に行くことができます。
ですから、この世と関わる際は、つながるその世界の日時や場所や次元をきちんと把握しなければなりません。
この世にいる私たちの時間軸は、あの世の方々には馴染みが少なくなり、
私たちの「今」も、あの世の方々はまずはその広い時空のどの地点なのかを認識するところからなのです。
ここがどの過去世なのか、あかねなのか、未来世なのか。
すると、周囲がぱっと真っ暗になり、
同時にやはり、「その答えは今の自分は知ってはならない」のだと悟ったところで、ゆっくりと目が覚めました。
明るい寝室が見えて、涙が止まらない自分は「あかね」なのだと、一番最初に確認しました。
夢の中で見ていた状況が魂の記憶なのか、ただの夢なのか、未来なのか、誰かのものなのかは分からないまま。
ですが、生きていることにほっとしたような、夢の中の彼からの思いは今の私にも届いていることが分かり、胸がいっぱいになっていました。