親戚には、お稲荷さんがいらっしゃるお家があります。
普段はあまり姿を見ることはありませんでしたが、あるときお稲荷さんの話をしていると、ひょっこりとその姿を見せてくれたことがあります。
私にはお稲荷さんの信仰は重たいのでその世界にはあまり詳しくないのですが、その親戚のところに祀られているお稲荷さんは、大きな神社さんにいるような立派な大きなお稲荷さんとは違って、まるでポメラニアンのような小柄な姿のお稲荷さんです。
真っ白で、ふかふかの毛並みは、威厳というより、お家が和やかな気持ちになるようでした。
そのお稲荷さんには依り代があって、その親戚のご商売に代々恩恵をもたらしました。
先祖代々の守り神ですから、その子孫がそのお祀りを引き継ぎます。
すると、そこへ嫁いだお嫁さんもお世話を担うようになりますが、外から嫁いで来るお嫁さんの中には、お祀りの方法や依り代のことがよく分からない人もいらっしゃいました。
何代目かは定かではありませんが、少し前の時代にお稲荷さんの大切な依代をなくしてしまうことがありました。
お祀りしている神棚のお掃除していると、そこに置いている依り代がお稲荷さんの宿る大切なものだとは知らずに、ゴミだと思って捨ててしまったそうです。
神様は依代が亡くなると宿る場所がなくなるので、その場所に長くとどまれなくなリます。
留まってもらえることもありますが、それは神様が判断されることになります。
今回の場合は、人間がわざわざお稲荷さんを勧請し、契りとしてお祀りされていました。
ですから、お祀りが滞れば留まる理由もなくなります。
ですがこのお稲荷さんは義理堅く、真面目で、使命感があり、そしてこの家族のことが大好きでした。
「いつか気づいてくれるはず」と、お稲荷さんは変わらずにせっせとそのお家を見守ってくれました。
しかし、依り代とはその神様の力を整えたり、エネルギー補給したり、休憩する場所でもあります。
さらに稲荷さんのような自然霊の場合は、きちんと力を補えないとその力が弱まり、心根がくすぶったり、その波動があやかしに陰ることもあります。
それでも依り代を捨てられたことを恨んではいませんでした。
お嫁さんは「何も知らない」「悪気がなかった」ことを、お稲荷さんも分かっていたからです。
だから我慢して、時が来るのをじっと待っていました。
それから月日が経つと、霊感のあるお嫁さんが嫁いで来ました。
その嫁さんがお稲荷さんに気づいたときには、真っ白な毛並みが真っ黒に変わりはて、とても弱っているようでした。
そしてお稲荷さんは「やっと気づいてもらえた」と言いました。
それまでそのお家のご商売が細く、長くつづいて来れたのは、お稲荷さんの我慢があったから。
お嫁さんは新しい依り代を構えましたが、同時にお嫁さんの代でその契りを終えることを、仏様のもとで結び直しました。
依り代も、商いも、そのお嫁さんの代で閉じることとなったのです。
すると真っ黒になってしまったお稲荷さん毛並みは、元通りの真っ白、ふかふかの毛並みに戻り、いつもの場所から家族を見守っていました。