この男をご存知だろうか。



『カカロニ』管谷

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同期の芸人である。


彼はツイてない。


いつも不遇だ。


ただそれが正常な状態でもある為、もはや不遇ですらないのかもしれない。





彼は学生時代、サッカーに打ち込んだ。


そして大学の時に発行された埼玉県サッカー協会の選手名鑑では、


チームメイトがサッカーにおけるスペックを評価されている中、

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と、全くサッカーとは関係のない部分にフォーカスを当てられた。






めでたい成人式の席では、


小学生の時ずっと菅谷のことをイジっていた仲の良い旧友に会った際、


菅谷「おー!久しぶり!」

友達「管谷俺のこと恨んでないのか?ごめんな、昔イジめて。」


と、8年越しに【イジリ】ではなく【イジメ】であったことを本人の口から突き付けられた。


普通イジめている側がその認識がなく、イジメられていた側が告発することで発覚するケースが多いが、まさかの逆パターンであり、非常に稀な症例である。







このようにとにかく菅谷の半生は、決して人に自慢できるようなモノではなかったのだ。


ただ僕はあの日の菅谷を忘れない。








アレは何年か前のことである。


芸人10人近くで海に行った際、


管谷は江ノ島にうごめく水着ギャルに発情したものの、勿論どうこうなるわけでもなく、その抑えきれない性欲を抱えたまま帰りの電車に乗り込んだ。


江ノ島から新宿方面への帰りの小田急線。


新宿に向かうはずが、町田で途中下車。


そして何と彼は、


給料が入るまでの残り2週間をあと8000円でやりくりしなければならなかったにも関わらず、その全財産を風俗に注ぎ込んだ。


なんたる愚行。


しかし彼の強い意志と行動力に魅せられた筆者と同期のコンビ『さんだる』(※3月12日付『後悔』の記事を参照)は、その一部始終を見届けることに。


ホームページの写真で見たお気に入りの子を電話で指名し、お店に指定された建物へと入っていく管谷。


見送る我々。


彼は明日から無一文だ。


良い思いをして帰ってきてほしい。


我々はその建物の入り口付近で立ち話をして時間をつぶすことに。


まもなく、ひとりの女性が建物に入っていくのを確認。





まさか。






管谷が先ほど指名した女性とはだいぶ見た目がかけ離れているが、、、


しかし残念ながら、その不安は的中。


血相を変えて建物から走って出てくる管谷。


まるで追い剥ぎにあったかのようなその姿。


話を聞くと、


写真とはかけ離れた女性が来た為、管谷はその場でベッドに倒れこんだらしい。


その怒りを女性にぶつけるわけにもいかず、やり切れない気持ちで胸が張り裂けそうになったという。


それはそうだ。


何しろ全財産を注ぎ込んだのだ。


そして蓋を開けて見たら、発注したモノとは違う商品が届いたわけだから至極当然の行動だろう。


そのときの状況を本人から聞くに、


2006年W杯でグループリーグ敗退が決まった際、引退を決意して倒れこんだ中田英寿を想像するのが賢明だろう。

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ベッドに倒れこむ菅谷。


するとその様子を見た女性が、


「受け身なんですねえ〜」


と言い、上に覆い被さってきたらしい。


間一髪ですり抜け、逃げてきた管谷。


もちろん無一文である。


今月終了のホイッスルが鳴る。






このまま彼を帰すわけにはいかない。


あまりに不憫だ。


そのストレスを発散させる為に、僕らの奢りで『ROUND1』(※スポーツ体感ゲームで溢れ、時を忘れ楽しめるアミューズメント施設)へと誘う。


一同はボーリングをすることに。


ピンにその思いをぶつけろ!


と叱咤激励したところ、


今までアベレージが70にも満たなかったこの男は、














267


というハイスコアを叩き出した。


菅谷が人に自慢できるモノが初めて生まれた瞬間である。


僕はあのときの菅谷を忘れない。


決して喜ぶわけでもなく、


まっすぐピンだけを見つめ、


ゲームが終わった後も凛とした姿で立ち尽くす。


隣の女子大生グループが、


「え!隣の人凄くない?!」


とワーキャーはしゃいでいるにも関わらず、目もくれない。




管谷は生まれ変わったのだ




その後管谷はひとりで駅まで歩を進める。


最後の10フレーム目を投げ終わってから、店を出てそのまま一度も後ろを振り返らなかった気がする。


駅まで向かう足取りは強くたくましく、


その後ろ姿は神々しく、


背中はいつもより大きく見えた。


菅谷が進もうとする先にはまるでモーゼの十戒のごとく、人の波が両脇へと分かれていき道が出来た。


そして駅の改札まで来たところで初めて振り返る。

そして管谷は僕らに媚びることなく堂々とこう言ってみせたんだ。












帰りの電車賃をくれないか




忘れてた。

こいつ二週間どう生活するんだ。