1988年2月10日、日本の平穏な水曜日は「伝説」の幕開けとともに一変しました。ファミリーコンピュータ用ソフト『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』の発売日、全国の家電量販店や玩具店の前には、開店前から数千人規模の長蛇の列が出現したのです。
この日の熱狂は、もはや娯楽の域を超えた「事件」でした。学校をサボって列に並ぶ小中学生や、仕事を「親戚の法事」と偽って休む大人が続出し、全国で補導者や欠勤者が相次ぐという異常事態に発展したのです。あまりの過熱ぶりに、並んでいる子供からソフトを強奪する「ドラクエ狩り」まで発生し、ニュース番組がトップニュースで社会問題を報じるほどでした。
これに頭を抱えたのが警察や文部省です。事態を重く見た当局の指導により、以降、ドラクエの新作は「平日に発売してはいけない」という前代未聞の暗黙のルールが業界に定着しました。私たちが今、大作ゲームを週末に安心して遊べるのは、実はこの日の大混乱があったからなのです。
また、本作は「勇者」という存在を定義し、自分たちの冒険が過去作へと繋がる衝撃の結末を用意していました。単なるゲームソフトが、日本人の共通言語として「文化」に昇格した瞬間。あの日の冬空の下、震えながら列に並んだ人々の熱気は、今も日本のゲーム史の中で伝説として語り継がれています。
