「日葬祭典 回想録」は「葬儀の話」「ヤクザの話」「神輿愛好会 櫻睦の話」「雑談」の4本柱で書き込みをしています。

 

私はボランティア活動で長く「パニック障害 患者の会」をやっていたので、余り一般に知られていない病気に対しては非常に気になるのと、葬儀社なので簡単に病院の医師に相談が出来るのです。当社の現場担当の社員から時々「社長、Y社員が車に乗ると直ぐに不規則な大きなイビキをかきながら、眠ってしまうんですよ、疲れているのではないでしょうか」と言われていたのです。

 

現場の社員に「Y社員は車に乗ると直ぐに寝むってしまうみたいだけれども、仕事は出来るの?」と聞いたら、「起こせば直ぐに起きて働くのですが、仕事がある程度落ち着いて一休みをする時には、必ず大きなイビキをかいて寝てしまうのです」と言うのです。気になるので病院の事務長に相談をしたら「医師に相談をしてみてあげるよ」と言ってくれました。

 

後日事務長にY社員の事を聞きに言ったら、「まだ一般的には知られていないのだけれども、睡眠時無呼吸症候群と言う疾患で、寝ている間に何度も呼吸が止まる病気で、夜熟睡が出来ないので睡眠不足の状態になり、昼間など起きている時に異常な眠気が現われて寝てしまうのと、大きなイビキをかく事が症状なんだって」と言われました。

 

そして「原因は肥満で、治療は継続しなければならない病気なので、一生治療を続けなければならないんだけれども、現在治療をしている患者さんは少ないみたいだよ」とも言われました。その為にY社員にその事を話したのですが、本人は気にしていないみたいなので「現場の仕事をしてくれればいい」と思っていました。

 

現場の社員にY社員がなぜ眠るのかを説明したら「社長、それと車に乗ると真冬でも必ず窓ガラスを数センチ開けるので、寒くてしょうがないんですが、それも病気ですか?」と聞くので「解らない」と答えておきました。

 

「大きなイビキをかいたおかげで」

何処の葬儀社でも告別式が終わったら、出棺の準備を始めます。お柩のフタを取って顔の周りに皆様から頂いた白菊の花をちぎって顔の周りをお飾りするのです。ただ、今迄綺麗に飾ってあった白菊の花をちぎってしまうので、見た目がよくないのです。それにその白菊の花をちぎっている場面を家族の方、参列者の人達が見ているのです。

 

その為当社はお柩を式場の中央に安置したら、家族の方、参列者の人達に葬儀式場の外に出て頂き、当社の生花屋さんから欄、カサブランカ、故人の好きな花、季節の花を持って来てもらい、その花を皆さんに1本ずつ渡していました。そして式場の中でお柩のフタを取って、当社の倉庫の近くにある「ビッグフラワー」と言う激安の生花店から、100本の赤いバラとカスミ草を買ってきて胸から足元まで綺麗に飾ってフタを閉じておくのです。

 

そして式場に入ったら祭壇や生花が見えない様に、屛風を立てて全体を隠してしまうのです。準備が出来たら家族の方、参列者の人達に式場の中に入ってもらうのです。そしてお柩のフタを取って皆様に顔の周りを花で綺麗に飾って頂くのです。顔の周りを花でお飾りをしている時に屛風の内側からY社員が大きなイビキをかき始めて、イビキが皆さんに聞こえてしまったのです。

 

直ぐにY社員を起こして、出棺をしたのです。この時の担当者は私の弟だったので、葬儀が終わって数日後に請求書を持って自宅に集金に行った弟から電話がかかってきて、私に直ぐに自宅に来る様に言われたのです。理由がわからないので、急いで自宅に伺ったら亡くなった母親の娘さんが怒っているのです。

 

そして私に向かって「私の母親の顔の周りに皆さんで花で綺麗に飾っていたら、お宅の社員の方が屛風の内側で寝ていて、それも大きなイビキをかいていて、そのイビキの声が皆んなに聞こえたんです。余りにも失礼だし、許せない」と言うのです。そして、「私はヤクザの偉い人を知っているので、その人に相談しますから」と言って何処かに行ってしまったのです。

 

そして、私に「社長、電話に出て下さい」と言うのです。電話に出て「葬儀屋ですけれども」と言ったら「私の良く知っている人の葬儀で、お宅の社員が大きなイビキをかいて寝ているのは失礼だし、何処の葬儀屋さん?」と聞かれたので、「とにかく当社が一方的に悪いのですから、ご喪家に謝罪して納得をして許してもらいますので」と言って電話を切りました。

 

これが困った時にヤクザに頼んで話をつけるんだという事を、初めて経験しました。部屋に戻ってから娘さんに「今、家族の方の気のすむ様にしてあげて欲しい」と言われましたので、「大変失礼なんですけれども、葬儀費用をまける事は失礼ですから全額支払ってください。そして、当社がお香典をお渡しするという事で収めてもらえませんか」とお願いしたのです。

 

そして、「お香典の金額は、基本料金の3割位でどうでしょうか?」と言ったら、他の人が「それでは困ります」と言いだしたのです。結局1割だけの金額で収めてもらいました。そうしたら、その日の夕方にそのヤクザの人から私に電話がかかってきて、「中村さんが葬儀をやってくれたんだって? 中村さんだったらどうでも良かったんだけど」と言ってくれました。

 

そして「相手の女性が最後にオカンの中をバラの花で綺麗に飾ってくれて、本当に喜んでいたよ」と言ってから、「中村さん、俺の顔を立ててくれてありがとう」と言われました。初めからそのヤクザの人に私の正体を言えば、1円も払う必要が無かったのですが、ヤクザの人の顔をつぶす訳にはいかなかったので、最初から3割と言ったのです。

 

会社に帰って来てからY社員に事情を話して何処かの大学病院に行く様に言いました。とにかく昼間は眠たくて、眠たくてしょうがないので、物を考えたり、集中力が無いので役員になっても使い物にならない訳ですから、本当に怖い病気だと思いました。

 

ただ気になったのは、神輿愛好会「櫻睦」の仲間たちと一緒にお神輿を担ぎに行く時に、車に乗ったら直ぐに寝て、真冬でも窓を数センチ開けられたら迷惑だろうなと思いました。