「美優さんはこの僕を見ても、大人の反応をしていた」
「それはどういう感じでしょう」
「この人も苦しんだんだろう。まだ若いからこれからね、というような感じで僕を見ていたような、そんな気がした」
「一瞬にしてそれを感じとったのですか」
「事件を起こした張本人を見る目ではなく、少なくとも胡散臭そうな目で見てはいなかった、と思う」
彼女はこういう経験豊かな人のような理解をするタイプか。
「若いからそういうこともあるわよね、みたいな。それに僕と顔を合わせて暮らすわけじゃないし」
「え、何かあるんですか」
「兄はいずれシカゴ大学医学部の研究スタッフになるようです」
「ほー、他大学の教員になるのではなく」
「ええ、どうもその線ではなく、巨額な研究費をかけたプロジェクトの一環として血液学の研究を行う。まあ、将来はどこかの大学教授になるのはまちがいないコースですよ。美優さんもいつか教授夫人になるわけで」
彼女にとってもともとそのほうが楽かも知れない。
「あなたは?」
「自分は単なる落ちこぼれですから」
「いえいえ、そんなことは」
無言。何か彼なりに期するところがあるのだろう。以前、弁護士が無理なら、数学を英語で教える教師になりたいと言っていたと聞いたが、傷害事件を起こしたので教職はむずかしいか。ふむ、どうするのだろう。
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