変わっていく、家族〜その75〜 | ぽんこたつ欲しいみかんの毎日気分は凸凹~生きてるからこそ~

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母の介護、父の死をきっかけに2016年にうつ病になったことから、転職を繰り返し、仕事社会から離れて今は生活保護で暮らしています。家族のこと、日常の出来事、病気やメンタル、伝えたいことや空想、情報など思うまま綴るまとまりのないブログです。

今日を、迎えられたことに、感謝。

 



過去のことを振り返るブログを書いています。



ご興味のある方は読んでみてください。





(続き)

母と2人。

ただただ、父を見つめて。


だんだん、この場にいるのが辛くなってきました。

途中、叔父夫婦が顔を出してくれました。

母を残し、少し廊下で立ち話をして。

15分ほどで、また後で来るからと言って…

申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。



「タオルを濡らして。」と母。

涙で視界があやふやな状態で…

タオルを渡すと、母は父の身体を拭きはじめました。


「お父さん…もう、痛いのはないのかな…
もう、苦しまないですむね…
良かったね。ずっと、辛かったもんね…」

自分では動けない父の身体を、自分が少しだけ動かしながら、やさしく、なぞるように拭く母…

父の身体は、骨と皮だけ…

折れてしまいそうな位、痩せてしまった…


交代で、自分も父の身体を拭きました。


父の目は、動かない。


呼吸を、やっとしているだけ…


わからなくてもいい…

あんなに苦しんで、痛くて、悔しい思いを散々してきた…


つい2日前、父が話した言葉たち。

あれは、きっと最後のメッセージ…

それを、感じざるをえませんでした…



妹は…

『今日も行ったほうがいい?』

そんな呑気なメールをしてきました。

気持ちの問題なんだよな…

そう、ため息をつきながら返信しました。

『とにかく、早く来て』



食欲はあまりありませんでした。

でも、食べなくては。


母と自分の昼食を売店で買い、病室でお昼を食べました。

もう、何日も買ったものばかり食べている…


母の身体も心配しなくてはいけないのに…!

「母ちゃん、こんなものばかりでごめん」

「何を言ってるの。こんな時に、そんなことまで気にしなくていいよ。
食べないと、ほら」


味を感じない…ひたすら、コーヒーで流し込んで食べました。


……しっかり、しなくては……

無虚な自分になってしまいそう…

そんな自分に、一瞬、身震いがするほど、
恐怖を感じました…


妹は、午後やって来ました。

やっと来たか…

「もう、会話はできない。目も虚ろで、多分、誰かを認識することもできていないと思う…」

小さく、妹にそう囁いて…


「父ちゃん…」

妹も、父の状態をさすがに感じたのでしょう…

少し、声を震わせて、何とか声を出しました。


「息するのも辛そう…」


本当に…


母と妹と自分。

3人でじっと父を見つめて…


「…お水、飲みたいのかな…」

ふと、自分は呟きました。


「ちょっとあげようか……」


「父ちゃん、ちょっとお水飲む?」

父は、…少し、反応をしたようにも見えました。

吸い飲みにほんの少し、水を入れて…


ゆっくり、父の口元へ…

「父ちゃん…本当にちょっとだけだけど…」

ゆっくりと、吸い飲みを父の口に…

ほんの少し。



水を含んだ瞬間。



くぅ~ という、呼吸の音が消え……



父の目から、一筋の涙が………


「……父ちゃん……」


……静寂……。


「…父ちゃん……?」

「…お父さん……?」


……静寂……


誰も、わからなかった、その瞬間を…






(続き)

何が起こったのか、少し間、誰もわかりませんでした。

目を開けたまま、呼吸が…

…………

我にかえって、ナースコールを……


ドクンドクンドクンドクン……

自分の心臓の音が聞こえる気がしました。


…………


主治医と看護師が…


父の瞳孔を確認して…

腕時計を見て…


「御臨終です…」


7月14日、14時前…

あの瞬間、父は天国へと旅立ちました…


「…父ちゃん…」


空っぽになりました。

わかったことは、目の前にいるのは間違いなく父であり、もう父でないということ…


「姉ちゃん… 親父が私を呼んでくれた…」

妹がそう言いました。


母と妹と自分に看取られ、旅立った父…


その瞬間は、静かで、あまりにもあっけなかった………!


父が、父ちゃんが…


空っぽすぎて、涙も出ませんでした。

この現実が、本当に、夢を見ているようにしか思えなかった。


「お父さん、綺麗にしてあげなくちゃいけないから…」

看護師が言いました。


父をかえして……

そう言いそうになる自分を、何とか抑えて。



空っぽの自分に替わって、もうひとりの自分が目覚めたかのように…


「宜しくお願いします。」


もうひとりの冷静な自分に頭を叩かれ、空っぽの世界から現実に…


そうだ…… ぼうっとしている場合ではない。


父をもう一度見つめて、母の代理人として、やるべきことをやらなくては……


主治医に死亡診断書を書いてもらい…


自分は、まず、叔父と上司と派遣会社に電話をしました。


父の元に、母を残しておくのは気掛かりでしたが、少しだけ側に居させてあげたい。


連絡をした人々は、とにかく驚いていました。

自分だって、何を言っているのか、まだわかってない。

勝手に口が動く…


叔父夫婦はすぐに駆け付けてくれました。


父を綺麗にして、霊柩車に乗せなくてはならない。


嫌なほど、現実は自分達を急き立てる!



自分が、叔父に連絡し、お見舞いに行ってくれた時…

父は、もう死期を悟っていたのかもしれません。

叔父に、出来るだけ親族だけでの葬式をしてほしいと頼んでありました。


あと1週間が山だと告げられた時から、
叔父夫婦は、叔父の檀家であるお寺にお願いして、特別に葬儀を執り行うことの了承を得てくれていました。


そういう話を、叔父夫婦から、父から自分は聞かされていました。


本当は、耳を塞ぎたかった。

でも、時期は迫っている…


叔父にしてみれば、一番辛い役回り…

何から何までお世話になりっぱなし…


父は、母と自分に負担をかけさくたい一心で、叔父に頼んだのだと思います。



将来の事なんて、死ぬ時の事なんて、考えたことのなかった父が。

死ぬ時ゃ、葬式なんてしなくていいからな、おりゃそういうの嫌なんだから、金かかるし、ないし。


昔からの口癖でした。


勝手に死ぬから、迷惑はかけさせないから、俺たちの好きにさせてくれ…。


母が倒れてから、その考え方は180度変わりました。

急に、健康に気を使うようになりました。


嫌いだった病院にも、何かあれば、進んで行くようになりました。


変わった父を…

自分はずっと見てきました。


父と、母の穏やかな生活がはじまったばかりでした。


今までの人生をやり直すかのように、父も、母もお互いを思いやるようになりました。


やっと。やっと……

それなのに…

父は… 逝ってしまった……



『俺は10代の時に、バイクでガードレールを越えて、ガケに落ちた。
なのに助かった。

本当は、あの時に死んでもおかしくなかったのに…



だから、もうじゅうぶん過ぎるほど生きられたと思う…

もう、じゅうぶん…』


最近、よく言っていた。

2日前にも言っていた。


父が……

覚悟をもって受け入れたことなら……


母も妹も自分も…

受け入れなくてはならないんだ…


頭ではわかっていても…


心が、ついていかない……


(続く)