今日を、迎えられたことに、感謝。
過去のことを振り返るブログを書いています。
ご興味のある方は読んでみてください。
(続き)
母と2人。
ただただ、父を見つめて。
だんだん、この場にいるのが辛くなってきました。
途中、叔父夫婦が顔を出してくれました。
母を残し、少し廊下で立ち話をして。
15分ほどで、また後で来るからと言って…
申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
「タオルを濡らして。」と母。
涙で視界があやふやな状態で…
タオルを渡すと、母は父の身体を拭きはじめました。
「お父さん…もう、痛いのはないのかな…
もう、苦しまないですむね…
良かったね。ずっと、辛かったもんね…」
自分では動けない父の身体を、自分が少しだけ動かしながら、やさしく、なぞるように拭く母…
父の身体は、骨と皮だけ…
折れてしまいそうな位、痩せてしまった…
交代で、自分も父の身体を拭きました。
父の目は、動かない。
呼吸を、やっとしているだけ…
わからなくてもいい…
あんなに苦しんで、痛くて、悔しい思いを散々してきた…
つい2日前、父が話した言葉たち。
あれは、きっと最後のメッセージ…
それを、感じざるをえませんでした…
妹は…
『今日も行ったほうがいい?』
そんな呑気なメールをしてきました。
気持ちの問題なんだよな…
そう、ため息をつきながら返信しました。
『とにかく、早く来て』
食欲はあまりありませんでした。
でも、食べなくては。
母と自分の昼食を売店で買い、病室でお昼を食べました。
もう、何日も買ったものばかり食べている…
母の身体も心配しなくてはいけないのに…!
「母ちゃん、こんなものばかりでごめん」
「何を言ってるの。こんな時に、そんなことまで気にしなくていいよ。
食べないと、ほら」
味を感じない…ひたすら、コーヒーで流し込んで食べました。
……しっかり、しなくては……
無虚な自分になってしまいそう…
そんな自分に、一瞬、身震いがするほど、
恐怖を感じました…
妹は、午後やって来ました。
やっと来たか…
「もう、会話はできない。目も虚ろで、多分、誰かを認識することもできていないと思う…」
小さく、妹にそう囁いて…
「父ちゃん…」
妹も、父の状態をさすがに感じたのでしょう…
少し、声を震わせて、何とか声を出しました。
「息するのも辛そう…」
本当に…
母と妹と自分。
3人でじっと父を見つめて…
「…お水、飲みたいのかな…」
ふと、自分は呟きました。
「ちょっとあげようか……」
「父ちゃん、ちょっとお水飲む?」
父は、…少し、反応をしたようにも見えました。
吸い飲みにほんの少し、水を入れて…
ゆっくり、父の口元へ…
「父ちゃん…本当にちょっとだけだけど…」
ゆっくりと、吸い飲みを父の口に…
ほんの少し。
水を含んだ瞬間。
くぅ~ という、呼吸の音が消え……
父の目から、一筋の涙が………
「……父ちゃん……」
……静寂……。
「…父ちゃん……?」
「…お父さん……?」
……静寂……
誰も、わからなかった、その瞬間を…
(続き)
何が起こったのか、少し間、誰もわかりませんでした。
目を開けたまま、呼吸が…
…………
我にかえって、ナースコールを……
ドクンドクンドクンドクン……
自分の心臓の音が聞こえる気がしました。
…………
主治医と看護師が…
父の瞳孔を確認して…
腕時計を見て…
「御臨終です…」
7月14日、14時前…
あの瞬間、父は天国へと旅立ちました…
「…父ちゃん…」
空っぽになりました。
わかったことは、目の前にいるのは間違いなく父であり、もう父でないということ…
「姉ちゃん… 親父が私を呼んでくれた…」
妹がそう言いました。
母と妹と自分に看取られ、旅立った父…
その瞬間は、静かで、あまりにもあっけなかった………!
父が、父ちゃんが…
空っぽすぎて、涙も出ませんでした。
この現実が、本当に、夢を見ているようにしか思えなかった。
「お父さん、綺麗にしてあげなくちゃいけないから…」
看護師が言いました。
父をかえして……
そう言いそうになる自分を、何とか抑えて。
空っぽの自分に替わって、もうひとりの自分が目覚めたかのように…
「宜しくお願いします。」
もうひとりの冷静な自分に頭を叩かれ、空っぽの世界から現実に…
そうだ…… ぼうっとしている場合ではない。
父をもう一度見つめて、母の代理人として、やるべきことをやらなくては……
主治医に死亡診断書を書いてもらい…
自分は、まず、叔父と上司と派遣会社に電話をしました。
父の元に、母を残しておくのは気掛かりでしたが、少しだけ側に居させてあげたい。
連絡をした人々は、とにかく驚いていました。
自分だって、何を言っているのか、まだわかってない。
勝手に口が動く…
叔父夫婦はすぐに駆け付けてくれました。
父を綺麗にして、霊柩車に乗せなくてはならない。
嫌なほど、現実は自分達を急き立てる!
自分が、叔父に連絡し、お見舞いに行ってくれた時…
父は、もう死期を悟っていたのかもしれません。
叔父に、出来るだけ親族だけでの葬式をしてほしいと頼んでありました。
あと1週間が山だと告げられた時から、
叔父夫婦は、叔父の檀家であるお寺にお願いして、特別に葬儀を執り行うことの了承を得てくれていました。
そういう話を、叔父夫婦から、父から自分は聞かされていました。
本当は、耳を塞ぎたかった。
でも、時期は迫っている…
叔父にしてみれば、一番辛い役回り…
何から何までお世話になりっぱなし…
父は、母と自分に負担をかけさくたい一心で、叔父に頼んだのだと思います。
将来の事なんて、死ぬ時の事なんて、考えたことのなかった父が。
死ぬ時ゃ、葬式なんてしなくていいからな、おりゃそういうの嫌なんだから、金かかるし、ないし。
昔からの口癖でした。
勝手に死ぬから、迷惑はかけさせないから、俺たちの好きにさせてくれ…。
母が倒れてから、その考え方は180度変わりました。
急に、健康に気を使うようになりました。
嫌いだった病院にも、何かあれば、進んで行くようになりました。
変わった父を…
自分はずっと見てきました。
父と、母の穏やかな生活がはじまったばかりでした。
今までの人生をやり直すかのように、父も、母もお互いを思いやるようになりました。
やっと。やっと……
それなのに…
父は… 逝ってしまった……
『俺は10代の時に、バイクでガードレールを越えて、ガケに落ちた。
なのに助かった。
本当は、あの時に死んでもおかしくなかったのに…
だから、もうじゅうぶん過ぎるほど生きられたと思う…
もう、じゅうぶん…』
最近、よく言っていた。
2日前にも言っていた。
父が……
覚悟をもって受け入れたことなら……
母も妹も自分も…
受け入れなくてはならないんだ…
頭ではわかっていても…
心が、ついていかない……
(続く)