「ホッチキスを、爪切りと間違えた。
  実話なんです。
  年をとるというのはねえ、年寄り夫婦にとっては、
  ほんとうに寂しい、寂しいものでね。
  だけど、奇想天外にぼけるもんだから、楽しんでおるんですね。
  ぼけたことをするのは、常識を超えた非常識。
  常識をひっくり返したりする詩と似ているんです。

  とんちんかんなことをするのは、
  確かにさみしいマイナスなことです。
  でも、それを笑うことによってマイナスをプラスにできる。
  こじつけですけど、詩の喜びと似たところがありますね」。(まど・みちお)



 ずっと、ずっと、とんちんかんなことばかり。息子の遠足の日を間違えて、ひとりリュックで登校させたり、夫の出張の荷造りに、私の下着やシャツを詰め込んだり。旅行先から、もって帰ったキーは、宿の部屋のキーで、我が家のキーは、その部屋に無理やり差し込んでいたり。
 なぜか、見当たらないと思った財布が冷蔵庫に鎮座してたり。車との距離を取り損ねて、乗ろうとして開けたドアに顔面をぶつけたり。「そろばん・あんざん」という看板に、「まあ、産婆さんがそろばんを教えている」とびっくりして笑われたり・・・と。

 とんちんかんで、ちんぷんかん。母が亡くなったり、夫が亡くなったり、息子が結婚して、子供が生まれて、息子が父親になったり・・・私の年齢も・・・みんな、みんな、とても現実とは思えない、ちんぷんかん。世界も私も、とんちんかんでちんぷんかん。なにがなんだかわからない。