1月28日の朝日新聞の天声人語をそのまま転載します。



東日本大震災のあと、数多くの言葉が紡がれてきた。

印象深かったひとつが、詩人高良留美子さんの一作だ。

「その声はいまも」の冒頭を引く。


< あの女は ひとり

わたしに立ち向かってきた

南三陸町役場の防災マイクから

その声はいまも響いている

わたしはあの人を町ごと呑みこんでしまったが

その声を消すことはできない >


津波を擬人化した「わたし」。

「あの女(ひと)」とは、

最後まで避難を呼びかけた宮城県南三陸町の職員、

遠藤未希さんのことだ。


その遠藤さんが、埼玉県の道徳の副読本に載るそうだ。

県が独自に作り、この4月から公立の小中高校で使われる。

その教材に「天使の声」と題して収録されるという。


あの日、被災地では、それぞれの使命を果たそうとした人たちが尊い命を落とした。

警察官や消防署員、消防団員もいた。

遠藤さんのいた防災対策庁舎では41人の町職員らが亡くなった。

個々の気高さを示しつつ、やはり痛恨のできごとには違いない。


道徳にせよ報道にせよ、美談にとどまるなら死者は浮かばれまい。

高良さんの詩は、ひとりの女性への静かな敬意に満ち、

人間が自然への畏怖を忘れてきたことへの悔悟が流れている。

美談を超えていく言葉の勁さがある。


こう結ばれる


< わたしはあの女の声を聞いている

その声のなかから

いのちが甦るのを感じている

わたしはあの女の身体を呑みこんでしまったが

いまもその声は わたしの底に響いている >


鎮魂と新生の声が聞こえる。