~エピソード6~

児童養護施設キタキツネ園からの帰り道、俺は真島刑事へ山川和美から得た情報を伝えた。そして、山川和美は必ず自首するからと、それまでは逮捕を待って欲しいと頼み込んだ。立場上、真島刑事も承認は出来ないが、俺からの話しは聞かなかった事にする条件で渋々了承してくれた。
山川和美からの話しだと、田中蒼真は麻依がどこの病院に入院しているか探していたらしい。もし、その病院が田中に知られれば、必ず麻依を殺しにやって来るはずだ。そしてその後は田中も自ら命を絶つはずだ。そんな事になる前に、俺は麻依を守り、田中から真実を聞き出さなきゃならない。
地元群馬に到着すると、俺は真っ直ぐに病院へと向かった。麻依はいまだ眼が覚めていないようだ。万が一、田中が現れた時のために、病院側には面会謝絶にしてもらう事にした。しばらくすると麻依のお母さんがやってきたので、俺は一旦麻依をお母さんに任せ、一ノ瀬美咲のいる病院へ向かった。

蓮 「失礼します。」

美咲 「あっ、小鳥遊君!」

蓮 「美咲さん!良かったぁ、だいぶ元気になりましたね!」

美咲 「心配掛けてごめんね~。もう大丈夫だから!それより事件の方、大変な事になっているみたいだね?」

俺は美咲も今回の事件では被害者である以上、これまで全ての経緯を話し、山川和美が関わっていた事を話した。当然だか、山川和美の名前が出た事に、驚きを隠せない表情をしていた。

美咲 「…なんか、和美の気持ち…少し分かるような気がするなぁ…。女ってさ、好きな人のためなら後先考えずに突っ走っちゃう事があるんだよね。本当に最初は軽い気持ちで田中君にもう一度振り向いて欲しかっただけだと思う。和美も罪悪感に押し潰されそうになりながら、辛かったんじゃないかな?それに、私は和美の事…責められないよ…」

蓮 「どうして?」

美咲 「私ね、田中君が麻依の事を好きなんじゃないかって薄々感じていた事があって、その時に"告白しちゃえばって"けしかけた事があるんだ。まさかこんな事になるとは思ってもいなかったから、私の軽はずみな言葉で田中君を傷付けさせてしまったのかと、今は後悔している。無理に告白させて、断られた事が、今回の事件の引き金になってしまったんじゃないかなぁって。」

蓮 「それは違うよ、美咲さん。俺だって好きな人ができたら告白して付き合いたいさ。でも、その恋がダメな結果だったとしても後悔はないさ。気持ちを伝えられないままいるよりも、思いきって告白した方がいいに決まっている。やらずしてダメより、やってみてダメだった方が潔いでしょ?ただ、田中の場合は、麻依にフラれる以前に起きた心の傷が大きかっただけなんだよ…人を愛する気持ちの伝え方のボタンを掛け違えてしまったんだ。その掛け違いを自分の中で正当化して暴力という間違った方向へ進んでしまった。だからこそ、罪を償って新たな恋をやり直して欲しいと願っている!」

一ノ瀬美咲の回復を確認できた俺は、少しホッとした気分でいた。もちろん、美咲さんが無事だった事が一番なのだが、山川和美の事を責めていないと言ってくれた事が山川和美を救う切っ掛けにもなるのではないかと思えたからだ。そして同時に、一日も早く麻依が意識を取り戻してくれるのを願う俺であった…。

『プルルル♪』

蓮 「もしもしお母さん、これからそっちに戻ります。」

麻依のお母さん 「あっ、蓮くん!さっきね、麻依の手を握っていたら少し動いたのよ。軽くだったけど、握り返してくれたの!」

蓮 「そうですか!麻依も一生懸命に戦っているんですね!必ず意識を戻してくれますよ!」

お母さんからの吉報に、まだ油断は出来ないと分かってはいたが、それでも期待で胸を撫で下ろす事が出来た。俺はそんな麻依の姿に一刻も早く会いたくなり急いで病院へた駆け出したのだった。

『ガシャーンッ!』

病室の前に着くと部屋の中から何かが倒れる音がした。慌ててドアを開くと、お母さんが何者かに襲われ麻依をかばうようにベッドにもたれ掛かっている。俺はその一瞬でそいつが何者かが分かっていた。

蓮 「田中ーっ!!」

俺は田中の襟元を掴み、少しでもベッドから離れさせるよう力ずくで放り投げた。お母さんは腕から血を流し、麻依を殺しに来た田中から娘を守るために刃物で切付けられたのだと確信した。壁に体を叩き付けられた田中は、何事もなかったかのよう立ち上がった。俺は二人を守るように前に立ち、田中からの襲撃に備えた。田中が持つナイフが、部屋の灯りに照らされ不気味に光っている。そして振り上げたナイフは躊躇いもなく一直線に俺に牙を剥いた。俺はとっさに両腕で田中の腕を掴み、後数センチの所で難を逃れた。力ずくで俺に刃を向けてくる田中は、まるで悪霊にでも取り憑かれたような目をしている。必死に抵抗していた俺は、思い切り田中の腹を蹴り飛ばした。体勢を立て直し、すかさず田中のナイフを取り上げに掛かった。もがき抵抗する田中の力はとてつもなく、一瞬の油断も許されなかった。しかし、力任せに暴れる田中のナイフは俺の腕を切り裂いた!

 

つづく