~エピソード5~

麻依は今も変わらず病院のベッドの上で目を覚ます事はない。この事件の真相を探りながらも、俺は麻依の手を握り締め、唯々、もう一度手を握り返してくれるのを待っている。

蓮 (麻依…必ずこの真相を暴いてみせるからな!だから…絶対に死なないでくれっ!)

病室でひたすら麻依の回復を祈るしか出来ない俺であった。だがその時、この事件の進展をとも言える着信が入った。相手は真島刑事である。

真島 「小鳥遊か?ちょっと面白い物を見せてやるから会えないか?」

真島刑事は、病院の駐車場まで俺を迎えにきてくれた。そして、助手席に乗り込むと、持っていたノートパソコンをゆっくりと開いた。すると、画面上には何かの映像が流れ始めた。一人の帽子を被りマスク姿の男性らしき人物が、鞄を持って走り去っていく映像だった。

真島 「小鳥遊、この映像の男に見覚えはないか?」

蓮 「ちょっとこれでは分かりませんが…」

真島 「なら、この男は田中蒼真に見えるか?」

蓮 「えっ!?どういう事ですか?」

真島 「先日、遺体で見付かった戸井田の部屋を捜索していたら、映像の中の鞄と酷似した鞄が発見された。それと中には大量の金も。これが何を意味しているか分かるか?」

蓮 「いえ…」

真島 「ここ数日間、パチンコ店の交換所が強盗に合う被害があった。この防犯カメラ映像はその時の物だ。」

蓮 「では、死んでいた戸井田が強盗犯?」

真島 「だが、映像の男と戸井田では背格好が違う。つまり実行犯は別人だ。戸井田を殺した犯人は金も取らずに逃げ去っている事から、金品目的ではなく殺意のみで戸井田に近付いたって事だ。そこに、俺が以前立てた仮説をぶち込んでやるとどうなる?」

蓮 「もし事故で死んだのが行方不明の小嶋誠で、死んだと思われる田中蒼真が生きている…って仮説ですよね。」

真島 「あぁそうだ。」

蓮 「…そうかっ!何らかの理由で死んだはずの田中蒼真は小嶋誠にすり替えられた。たぶん、あの時、車には田中と一緒に小嶋も乗っていたのかもしれない。そして、事故で炎上し、田中だけは生き残っていた。最初に現場へと到着した戸井田は、確かに救助のために車へと近付いていました。そこで戸井田は田中を救助し、のちに強盗をさせていた。」

真島 「そうかもな。」

蓮 「でも、それでは少し疑問が残ります。一つは田中蒼真と小嶋誠が何故一緒にいたのか?それと、田中の命を助けたはずの戸井田が何故殺されたか?です。」

真島 「そこなんだ…。ただ一つ言える事は、あの事故で死んだのは田中ではないって事だ。あの腕時計は車内で焼死した遺体の腕に着いていた物だ。盗んだ物を田中が着けていたとしたら、あんな独特なデザインでさらにはイニシャル入りの時計なんて着けていたらすくにバレるだろう?」

蓮 「確かにそうかもしれません。」

真島 「何故、田中と小嶋が一緒にいたかは不明だが、仮に、田中蒼真を助けた戸井田は、田中の秘密や弱みを握って強盗をさせていた…。元々そのつもりで焼死した小嶋を田中蒼真だと偽って報告書を上げていたのかもしれない。そしていい加減、利用されている事に嫌気が指した田中は戸井田を裏切り殺した。」

蓮 「だとしたら、田中の目的は?」

真島 「言いたくはないが…お前らへの復讐かもな…」

蓮 「・・・」

真島 「まぁ何にせよ、田中が生きているという証拠はまだないんだ。まだ仮説の段階だが、お前も用心に越したことはない。気を付けるんだぞ。」

車から降りると、真島刑事は引き続き捜査のために走り去ってしまった。俺は麻依のいる病室へと戻り、真島刑事から言われた"復讐"の二文字が頭から離れずにいた。それは復讐されるのが怖いとかではなく、どうして麻依に対する気持ちが好意から殺意に変わってしまったのかという事だ。それがストーカーというものなのか?その辺の心理学的な部分になると、俺には理解するのが困難なようだ。その辺りも含め、俺はもう一度調べてみる事にした。
翌朝、どうやら俺は調べものをしている間に病室で寝落ちしてしまったようだ。見回りの看護師さんであろうか、俺の体には毛布が掛けられていた。朝陽の差し込む病室から外の景色を見ていると、この悪夢のような現実を忘れてしまいそうだった。

『トゥルルン トゥルルン♪』

蓮 「もしもし小鳥遊ですが…」

相沢 「おはようございます、相沢です。」

蓮 「あっ、どうも。どうされましたか?」

相沢 「小鳥遊さんがいらしてから、少し考えてみたのですが、一つ思い出した事がありまして…」

蓮 「えっ!?それは何ですか?」

相沢 「いえ、たいした事ではないのですが、あのボランティア活動の後、うちの生徒が田中蒼真君と手紙でやり取りしていたんです。どうやら田中君の事を好きになってしまったらしくて。向こうにいる時はうまく話せなかったからと、一度相談された事もありました。その後どうなったかは聞いていないので分かりませんが、青春の一コマみたいなものかと深くは考えてはいませんでした。普段は大人しい山川には珍しいかなって!」

蓮 「山川?」

相沢 「あっ、ごめんなさい。山川って言われても分からないですよね!クリスマス会の写真でメガネを掛けている女の子が山川って言うんです。」

蓮 「今、写真を見ています。あぁ、この子ですね。ん…!?あの…このメガネの女の子って…山川…和美さん?」

相沢 「えっ!?そうです!ご存知でしたか?山川和美です!」

蓮 「えっ!!鈴木麻依と山川和美は同級生だったのですかっ?」

相沢先生からの連絡により、新たに山川和美が同級生だと判明した。これにより、田中蒼真、鈴木麻依、山川和美の三人がこの事件に関与している可能性が浮上してきたのだ。山川和美と言えば、今も会社で一緒に働いている。田中蒼真と山川和美はいったいどういう関係なのだ。俺は急いで会社に戻り山川和美を探した。

つづく