翌日、俺は飛行機に乗り再度キタキツネ園を目指した。

蓮 「こんにちわ。お忙しい所すみません。度々お邪魔いたします。」

冴木 「あら、小鳥遊さん!またどうしたの?」

蓮 「例のアルバムから無くなった写真…これではないですか?」

冴木 「これよ!どこで見付けてきたの?」

蓮 「田中蒼真の自宅です。そして、この写真だけがカレンダーの裏に隠されていました。冴木園長…この写真に何か思い当たる事はないですか?どんな小さな事でもいいです!」

冴木 「そうね…、あの日の事はまだ覚えているけど、これと言って特別な事はなかったと思うわ。」

蓮 「では、冴木園長は何故田中がこの写真だけを持ち帰ったと思いますか?」

冴木 「何故かしら…。」

蓮 「この写真の端に写っている女性ですが、鈴木麻依と言います。鈴木さんは、先日何者かによって頭を殴られ今も病院で意識不明の重態です。田中は鈴木麻依さんに好意を持ち、ストーカー行為をしていたと思われます。それは、田中の自室に大量の麻依さんの写真があったという事と、田中が亡くなる直前に俺と一緒にいる麻依さんを殺そうと追い掛けて車の事故に合っている事から推察されます。しかし、すでに田中は亡くなっているにも関わらずまた誰かに狙われた。俺にはこの写真が今回の事件を紐解く鍵だと思えるのです。」

冴木 「ごめんなさい…せっかくこんな遠い所まで来て頂いたのに、私には何も力になれそうにないわ。」

蓮 「そうですか…」

俺は写真を冴木園長に見せる事により、何かを思い出すのではないかと直感したが、その当ては外れてしまったようだ。立ち止まってもいられなく、仕切り直すため俺は地元へ戻ろうとした。するとその時、冴木園長から呼び止められた。

冴木 「ねぇ小鳥遊さん。当時の高校の顧問に話を聞いてみたらどう?私よりも顧問の先生なら何か知っているかもしれないわ。たしか、群馬県立○○高校の相沢先生という女性の方だったわ。」

蓮 「そうですか!ありがとうございます。」

冴木園長から有力な情報は得られなかったが、当時のボランティア活動を指導していた教師である"相沢先生"の存在を聞き訪ねてみる事にした。
キタキツネ園からの帰り道、もう少しで地元に到着するという所で、俺の携帯が鳴った。

蓮 「もしもし、小鳥遊ですが。」

真島 「真島です。ちょっと話したい事があるんだが、会えるか?」

蓮 「大丈夫ですよ。ちょうどこちらも北海道から帰ってきた所です。」

真島 「北海道…!?」

蓮 「ええ。田中蒼真の育った施設に行ってきました。」

真島 「何か情報は得られたのか?」

蓮 「いえ、有力な情報は何も…」

真島 「まあいい。こっちも田中の事で気になる事が分かった。これから先は会ってから話そう。」

俺は駅前の喫茶店で真島刑事と合流する事になった。

『カランコロン♪』

店のドアが開くと、すでに真島刑事は窓際のテーブル席に付いていた。

蓮 「すみません、お待たせしました。」

真島 「いや、大丈夫だ。早速で悪いんだが、本題に入らせてもらうぞ。」

蓮 「はい!」

真島 「俺もあの後、署に戻って田中蒼真の一件を調べてみたんだが、少し妙な事が起きているんだ。あの田中蒼真が事故を起こし亡くなった日だ。通報を受けて最初に駆け付けた警官である"戸井田巡査"って奴が、事故処理後にやたら金回りが良くなったと同僚に漏らして退職しているんだ。そしてその戸井田に連絡をしているんだが一向に捕まらない。残っている報告書も曖昧な点があるから、俺は戸井田を探してみようと思う。そこで、お前には一つ頼みがあるんだ。この腕時計をある所に持っていってほしい。」

蓮 「ある所…?」

真島 「田中蒼真を調べているうちに分かったんだが、お前の会社では以前から関係者が自殺していたり、行方不明になっているそうじゃないか?」

蓮 「みたいですね。俺がこの会社に転勤で来る前の事だと麻依から聞いています。」

真島 「その時に行方不明になっているのが"小嶋誠"だ。そこで俺はある仮説を立てた。もし、事故で死んだのが田中ではなく小嶋だったとしたら…。」

蓮 「えっ!いや…でも、俺もその場にいましたが、確かに運転席には田中が乗っていました。」

真島 「そうか…。そこに俺たちの知らない何か隠され事があるのかもな。何にせよだ、俺は戸井田って奴から話を聞かなきゃならない。お前はその時計を持って小嶋の両親に会って小嶋誠の物か確かめてくれ。」

真島刑事の仮説の元、俺は以前に麻依と同僚であった小嶋誠の実家へと向かった。渡された腕時計と住所を手に閑静な住宅街へと入っていく。どこにでもある二階建ての一軒家には"小嶋"の表札が掛けてあった。俺は車から降りインターホンを鳴らした。すると中から小嶋誠の母親らしき女性が出てきた。突然の訪問に母親は困惑した表情であったが、事情を説明すると消息を絶った息子の為ならと素直に協力をしてくれ、俺は持ってきた腕時計を母親に確認してもらった。しかし、母親は見覚えがなく確信が持てないと言う。ここでの進展は得られなかったが、引き続き行方を追っている旨を伝え小嶋の家を後にした。

『トゥルルン トゥルルン♪』

俺の携帯に着信が入った。相手は真島刑事からだ。

真島 「俺だ!今、戸井田のアパートにいるんだが…ちょっと面倒な事になった!」

蓮 「どうしたのですか!?」

真島 「戸井田が…殺されている!」

蓮 「えっ!!」

まさかの凶報とも言える末路に、濃霧の中に放り困れたような先の見えない不安に襲われた。
また振り出しに戻った俺は、まだやり残していた事を思い出した。麻依の高校に行き、顧問であった相沢先生に会う事だ。少しでも可能性があれば調べてみる価値は十分にある。そう信じて俺は高校へと向かった。
高校に着くと、事務室で相沢先生を尋ねた。すると、幸いにも相沢先生は現在もここで教壇に立っていると知らされた。呼び出してもらい、しばらくすると相沢先生が現れた。

相沢 「お待たせしました。どういったご用件でしょうか?」

蓮 「お忙しい所すみません。小鳥遊と言います。数年前のボランティア活動について話を聞きたいのですが、少しお時間を頂けないでしょうか?」

俺は麻依に起こった事や、キタキツネ園での事を話した。相沢先生も最初は信じがたい表情であったが、当時の写真や冴木園長の紹介であったお陰で納得してくれたようだ。ちょうど今日最後の授業が終わり、部活動が始まるまでの少しの時間という条件付きで話を聞いてもらう事が出来た。

蓮 「突然にすみません。ですが、一刻を争う状況ですので無理を承知で伺いました。相沢先生の教え子である鈴木麻依さんが何者かに襲われ、現在も意識不明の状態です。そこで、色々と調べていくうちに、どうやらキタキツネ園での出来事が今回の事件に影響しているのではないかと思われます。そこで先生に伺いたいのは、キタキツネ園で何か問題などはなかったかという事です?」

相沢 「…もう何年も前の事だし、トラブルや特別な事は無かったと思いますが。」

蓮 「では、先生は"田中蒼真"という男性を覚えていらっしゃいますか?」

相沢 「はい、何となくですが覚えています。たしか、面倒見の良い明るい子だったような…。」

蓮 「その田中蒼真について、他に覚えている事は?どんな小さな事でもいいんです。」

相沢 「…ごめんなさい、これと言って思い出せないわ。」

蓮 「そうですか…。分かりました。では、何か思い出したらご連絡下さい。」

残念ながら、今、俺が調べられる事全てが手詰まりとなってしまった。俺は半ば諦めかけていた。やはり、素人の俺が麻依や美咲の仇を打とうなどとうい考えは無謀だったのかもしれない。自分の弱さに反吐がでそうなくらいだ。そんな愚痴をこぼしながら麻依のいる病院へと歩いていると携帯が鳴った。相手は行方不明となっている"小嶋誠"の自宅からだった。電話に出ると若い女性の声である。

『もしもし、小嶋誠の妹です!お母さんから聞いたのですが、先程の腕時計の写メを見ました。はっきりとは言えませんが、独特なデザインがお兄ちゃんの時計によく似ています。お母さんは知らなかったみたいですけど、私、お兄ちゃんが似ている時計を着けている所を何度か見ました。社会人になって初めてのボーナスで自分へのご褒美だとかで買ったと言っていました。お母さんに言うと無駄遣いとか言われそうだからとなるべく見せないようにしていたみたい。もし、お兄ちゃんの物なら、時計の裏に刻印があると思います。』

まさかの朗報に俺は急いで時計の裏側を確認した。しかし、焼けた時の焦げなのか、黒ずんでしまい刻印がはっきりと見えない状態であった。俺はすかさず携帯を取り真島刑事に連絡を入れた。

蓮 「もしもし小鳥遊です!すみませんが、真島さんのお力で"鑑識"をお願いできないですか?」

真島 「鑑識…!?どうしたんだ?」

蓮 「小嶋誠の妹によると、腕時計の持ち主が小嶋だとすると、裏側に刻印があるそうです。しかし、焼けた黒ずみで肉眼では確認できません。そこで、警察の鑑識なら判別できるはず!」

真島 「分かった。では、署で待ち合わせよう。」

俺は急いで真島刑事のいる警察署へと向かった。30分ほど待つと真島刑事が現れた。すぐに鑑識へと回してくれる段取りを付けてくれた。その間、俺は麻依のいる病院に戻り鑑識結果を待っていた。そして夕方、真島刑事から連絡があった。時計裏の刻印には【M.K】のイニシャルが浮かび上がったそうだ。

蓮 「まこと…こじま…M.K…」

俺と麻依を車で追い掛け、事故で死んだと思われていたはずの田中蒼真の遺体からは、何故か行方不明の小嶋誠の腕時計を着けていたという事だ!この結果から想定できる事は、田中が何かしらの理由で小嶋誠の腕時計を着けていたか、若しくは、事故で死んだのは"小嶋誠であった"の2通りしかない。さらに付け加えるなら、一ノ瀬美咲が疑っていたように、あの放火時の防犯カメラに映っていた犯人が田中蒼真に似ているという点を交えると、実は、田中蒼真は生きている可能性まで考えられる。しかし、俺は車の中にいた田中蒼真を見ている。真島刑事が言う仮説のように、この事故の裏には俺達の知らない何かが隠されているのではないかと感じ始めた…。

~エピソード4
終わり