~前回のあらすじ~

さらわれた村人を救うため、強制労働させられていた採掘場へ乗り込んだ。

そこで目にしたのは、酷い仕打ちを受けて働かされている村人たち・・・。

助けるべく、せいきちと新之助が立ち上がったのだが、

新たに現れた目の前の敵に、神道極一刀流は通じるのか!

 

~本編~

せいきち 「マズいな…。こいつはいままでの相手とは違う…。下手に手出しできないぞ。」

新之助 「邪魔だっ!そこをどけ!邪魔するなら容赦はせぬぞ!」

 

大男は怯む様子もなく、それどころか手にしていた槍をこちらに向けてきたのだ。相当、手練れた槍の使い手と戦いは初めてだった俺は、如何なる攻撃をしてくるのか出方を伺っていた。しかし、激高している新之助は習得したばかりの神道一刀流で攻撃を仕掛けたのだった。
以前とは見違えるほどの素早さで大男との間合い詰めた新之助は、一瞬にして抜刀し相手の懐を目掛けて斬り掛かった。

『キーンッ!』

新之助 「なにっ!?」

大男は新之助の素早い太刀を、いとも簡単に槍の先端で躱し避けたのだった!さらに大男はその槍を大きく振り上げて一直線に新之助を目掛けて振り落としたのだ。

『ズバーンッ!!』

せいきち 「新之助ーっ!」

槍の先端は地面をえぐり、まるで砲弾でも落ちてきたような破壊力であった。立ち上る煙のような噴石で新之助の姿がまったく確認できなかったほどだ。

新之助 「ふぅ、間一髪だったぜ。なかなかやるなぁ大将…。気に入ったぜ…、名は何て言うんだ?」

大男 「我が名は坂田青雲。頭(かしら)の指示により、何人足りともここを通す訳にはいかん!」

新之助 「坂田…青雲?」

青雲 「お前らが覚えていなくとも、ここで恨みを晴らさせてもらうぞ。さあ、我が槍の餌食にしてくれようぞ!うらぁぁぁっ!」

槍の使い手である坂田青雲は、偉躯(いく→大きい体)ながらも俊敏な槍捌きで攻撃を仕掛けてくる。豪腕でありながら俊敏な動きに、新之助も俺もなかなか反撃に転じる事が出来なかった。

せいきち (坂田…青雲…?どこかで聞いた名前だなぁ…)

新之助 「せいきちっ!何をぼやっとしておる。逃げてばかりでは先に進めんぞ!」

せいきち 「あぁ、すまぬ…。しかし、奴の長槍では、下手に斬り掛かるのは危険だ…。」

新之助 「せいきちっ!危ないっ!!」

『ドカッッ!!』

せいきち 「うぁぁ!」

青雲の凪払いは躱したものの、持ち手の柄を使った連撃に俺は弾き飛ばされてしまった。
槍を自由自在に操る攻撃は、間合いまで近寄る事すら困難な状況であった。例え瞬足の神道一刀流で間合いに入れたとしても、どちらも痛手を追う事は明白。

せいきち (きっとどこかに隙があるはずだ…その時までは何としても!)

青雲 「大蛇乱舞!(おろちらんぶ)」

今度は新之助に向かい、新たな攻撃を仕掛けた!素早い槍の突きを幾度も繰り返し、まるで無数の大蛇が牙を剥き出しに襲い掛かってくるかのようだった。

青雲 「おりゃおりゃおりゃーっ!串刺しにしてくれわっ!」

新之助もギリギリの所で躱してはいるが、もう後がない。

せいきち (マズい…どうにかして助けなければ…)

俺は呼吸を整え、一か八かで刀を構えた。

せいきち 『神道一刀流…神道突牙斬!』

地面を蹴り、真っ直ぐ青雲へと突進していった。

青雲 「ふっ、甘い!そうくると思っていたわ!」

『ズガーン!!』

せいきち 「ぐはっ!」

新之助への攻撃を緩める事なく、槍の柄で俺はまたしても弾き飛ばされてしまった。青雲は後ろからの攻撃を、むしろ待っていたかのように嘲笑い見せたのだ。新之助は迫りくる槍の刃を避けながら、少しずつ壁際へと追いやられている。そして、ついに下がり切れなくなり、防御の限界に達した時だった。
樹上(木の上)から黒い影が青雲の顔を目掛けて飛び付いたのだ!

せいきち 「あ…あれは!?」

甚八 「うわぁぁぁっ!」

なんと、甚八が間一髪の所で青雲に飛び付き動きを止めてくれたのだ。新之助もその隙に槍からの攻撃を逃れ、無事に回避する事ができた。しかし、甚八は青雲に首根っこを捕まれ苦し踠いている。

甚八 「ぐぅぅっ!」

青雲 「なんだ貴様っ!邪魔しおって。まずはお前からあの世に送ってやる!死ね・・・」

『ズバっ!』

新之助 「神道一刀流…風伯一刀斬!」

この一瞬の隙に、新之助の刃は青雲の脇腹を斬ったのだ。青雲が腹を押さえ跪いている間に新之助は甚八を救出する事が出来た。

新之助 「何故戻ってきたのだ?危うくお前も死ぬ所であったぞ!」

甚八 「…遠くから二人が戦っているのを見て、私にも何か出来ないか、何か罪滅ぼしが出来ないかという気持ちになりました。元はと言えば私にも責任があります。村人の為にも、お二人の為にも何かしなければと考えていたら…、気付いた時にはもう私はあの男に飛び付いていました。」

新之助 「ふっ、無茶しやがって…。でもお前のお陰で助かったよ。ありがとうな!せいきち立てるかっ!」

せいきち 「あぁ、大丈夫だ!」

新之助 「甚八のお陰で好機到来だっ!今こそ俺たちの力を発揮するだ!行くぞっ!」

新之助 「神道極一刀流…神道突牙斬!」
せいきち 「神道極一刀流…雷公一刀斬!」

『ズガーンッ!!!』

青雲 「ぬうぁぁぁっ!」

甚八の助けが無ければ、今頃、俺たちは青雲に殺られていたかもしれなかった。俺も新之助もあえて急所は外していた。それは、青雲の"恨み"がなんだったのかを確かめなければならなかったからだ。

青雲 「うぅぅぅ。」

せいきち 「一つ聞かせてくれ。俺たちに対する恨みとは…まさか、坂田八雲の事ではないか?」

青雲 「・・・あぁ、その通りだ。お前らに殺された坂田八雲は俺の弟だ。その恨みを晴らさんべく、お前たちを待ち構えていたのだ。しかし、邪魔者がもう一人いたとは…不覚…」

せいきち 「確かに俺たちは八雲も戦った。しかし、あいつは最後、自ら炎に飛び込んで命を絶ったのだ。武士として敗けを認め、最後は潔くな…」

青雲 「嘘を付くでないっ!八雲はお主らの騙し討ちによって命を果てたのだ!」

新之助 「騙し討ち?ふざけるなっ!俺は八雲と正々堂々と勝負をしたのだっ。…初めは大上最善に操られていると思っていたが、戦っているうちにあいつの目は間違いなく武士としての真剣勝負の眼差しであった。あの時、俺も八雲も、互いに武士として死を覚悟の上であった!皮肉なもので、互いに幕府の護衛用人として働きつつも良き競争相手として共に剣の腕を磨いてきたのに…まさか大上最善の手先だったとはなぁ。」

青雲 「大上最善の手先だと!?」

新之助 「あぁ、きっと役職か何かを餌に反幕府の大上に付いたのであろう。しかし八雲が俺たち敗れたと知ると、今度は人質を取って雲隠れしてしまった。手下であった八雲を弔いもせずにだっ!。だから俺たちはその大上最善を追ってここまで来たのだ!」

青雲 「お主は…八雲と共に職務を全うしていたと言うのか…?」

新之助 「俺と八雲は江戸城警護役として働いていた。決して気の合う仲間とは言えんが、剣の腕では武士道を貫いてきた者同士だ!なのに…、どこで歯車が狂ってしまったのか…」

新之助の話しを聞いた青雲は、どことなく悲しげな表情を浮かべていた。それは弟の本当の最期を知り、単純に弟思いの兄の顔へと戻ったのだと感じた。

青雲 「俺はなんて間抜けな男なんだ…。俺たち兄弟は幼い頃に両親を亡くし、育ての親から厳しく剣の道を教えられてきた。そしていつぞや、武士として陽の目を見る事を夢見て邁進してきたのだ。弟はその夢を叶え始めていたのいうのに…」

せいきち・新之助 「・・・」

青雲 「お前たちの目指す大上最善の居場所はここからさほど遠くはない山中にある。麓に古びた神社があるから目印になるだろう。さぁ、早く行けっ!」

俺たちは村人たちを集め、各村へと連れて帰った。
そして、兵衛門たちが暮らす村へと帰ってくると、村人たちは一斉に俺たちを出迎えてくれた。俺たちの後ろからは、拐われた村人たちが次々と村に向かって手を振っている。中には走り出して、この日をどれだけ待ちわびていたか、喜びの涙で抱き締め合う者もいた。

兵衛門 「よくぞご無事に戻られた。何より、村の仲間を救って下さり、心より感謝致します。どうか今夜は宴をご用意致します。ゆっくりとなさって下さい。」

せいきち 「その前に…ほらっ、甚八。お前から言うべき事があるだろう。」

甚八 「ご、ごめんなさい!天狗の正体は私です。本当にごめんなさい!」

兵衛門 「これはどういう事でございますか?」

新之助 「こいつも脅されて仕方なく人さらいをさせられてたって訳だ。反省もしているし、救出にも協力してくれた。だから俺らに免じて勘弁してくれまいか?」

兵衛門 「時に、人は欲や恐怖に負けてしまう事があります。村人も無事に帰ってこれたし、これからの生き方で、悔いは改められるのではないでしょうかのぉ?」

せいきち 「なら、許してもらえるのですね?良かったな甚八!村長や皆に感謝しろよっ!」

甚八 「ありがとうございます!」

その日の夜、村は久し振りの家族の再会に、いつまでも歓喜の声が響き渡っていた。

 

つづく