それからは、俺と新之助は体のあらゆる所に重りを付けながら畑仕事や薪割り、水汲みなど、筋力を付ける為の動きに加え、真剣での実践修行と平行しながら一日を過ごした。
数週間後、上様からの伝言を預かったという家来が訪れた。その内容は"大上歳善の居所が判明した"との事だった。しかしながら、未だ水織殿の容態は変わらず意識が戻らないままだと言う。鬱念の思いであるが、今は一刻も早くお菊殿を救い出す事。その日の夜、俺は清兵衛様に一日も早く出発したい旨を伝えた。

清兵衛 「明日の朝、お主らの成長ぶりを見てやろう。そして、儂の目に叶ったのなら出発を認めてしんぜよ。」

せいきち 「…分かりました!よろしくお願いいたします。」

新之助 「明日かぁ。とうとう自分の力量を試す時が来たのだな…。」

俺と新之助は、一緒に床に付き、ぼんやりと天井を眺めていた。きっと考えている事は一緒だったのだと思う。何か言葉を交わす事もなく、ただただ互いの進むべき道を見つめていたのであった。

翌朝、俺と新之助は陽が昇る前から着替え最後の稽古をしていた。短い間ではあったが、神道極一刀流を学び、そしてそれを試す時が来たのだ。二人とも交わす言葉はなく、清兵衛様が来るのを待ちわびていた。

清兵衛 「遅くなってすまんな。では始めるとするか。準備はよろしいかな?」

せいきち・新之助 『はい!』

清兵衛 「良かろう。まずは、今まで身に付けていた重しを外すがよい。では、新之助から参ろう。あそこに人形が置いてある。得意とする型で仕留めてみよ。」

新之助 「はい!」

目を閉じ呼吸を整えた新之助は、地面を蹴り人形に向かっていった。凄ましい早さで懐に入り水平斬りを繰り出したかと思うと、そのまま相手の背後に回り力強い一太刀を叩き入れたのだった!

新之助 「はぁはぁ。す、すごい!俺にあんな早さがあるなんて…。信じられん!」

清兵衛 「続いて、せいきち。」

せいきち 「はい!」

新之助の快挙に背中を押されるように、俺もそっと目を閉じ刀を構えた。

せいきち (自分を信じるんだ…。俺は必ずお菊殿を助けるんだ!行くぞっ!)

俺は人形に向かい走り始めた。そして…

新之助 「えっ?せいきちが消えた!」

俺は天高く飛び上がり、稲妻の如く叩き斬った!

『ドカーンッ!』

人形は木っ端微塵に吹き飛び、支えていた木注は割れ、地面までもがえぐり取られていた!まさに、天の怒りが落雷(いかづち)となり打ち滅ぼしたのだ!

新之助 「す、すごい…。これが真の神道極一刀流なのか…」

せいきち 「はぁはぁはぁ…」

清兵衛 「二人ともご苦労であった。」

新之助 「師匠…、我々の成果はいかがでしたか?」

清兵衛 「二人ともなかなかのもんじゃ。最初に見せてもらった新之助の技は風の神の型、"風伯一刀斬"じゃな。なかなかの早さで見事であった。」

新之助 「えっ!?名前があったのですか?」

清兵衛 「当たり前じゃ!せいきちが初めて見せた弓矢を構えた様な構えから繰り出した突きの攻撃は"神道突牙斬"じゃな。」

新之助 「知らなかったぁ。最初に教えて下さいよ師匠!」

清兵衛 「すまんかった。あまりにもお主らの技が良かったのでなぁ、思い出させてもらったわ。そして、せいきち。お主の放った技は雷の神の型、"雷公一刀斬"じゃな。早さといい、破壊力といい、申し分無い仕上がりじゃ!二人とも短い期間でよくぞ成長した。まだまだ教え足りん所だが、もはや一刻の猶予もあるまい。二人で力を合わせ菊姫を助け出すのじゃ!」

せいきち・新之助 『はい!』

清兵衛 「そしてせいきち…。これだけは覚えておくのじゃ。武士として相手に止めを指すのも情けであり、また、もののふとしての定めと知り心得ておくのじゃぞ。」

せいきち 「・・・」

俺と新之助は一旦城に戻り、上様より大上の居所は京都にある伏見城近くの山中だと教えてもらった。俺たちも急いで旅支度をし、お菊殿を救うため京都伏見へと出発したのだった。

第三章 ~極み~
終わり