せいきち『大上歳善!冗談じゃねーぞ、このヤロー!いざ尋常に勝負!』

俺は、余りに身勝手な大上の忠誠心とやらに、これまでに命を落とした者や、暗い牢屋に閉じ込められたお菊殿の無念さに怒りを抑える事が出来なくなっていた。だが、この時代に生ける者としては、主君への忠誠も当たり前の事だとも思う。しかしこの怒りと情けの狭間に、俺は少しの躊躇いがあったのだが、今は目の前の襲いかかる敵に立ち向かうしか他になかったのだ。
心強いのは、新之助が俺と同じ神道一刀流の使い手となっていた事。さらに強くなった新之助がとても頼もしく感じた。
俺は大上歳善と睨み合い、そして、刀を構えた。老いた相手とは言え、その眼光は幾多の合戦を掻い潜ってきた武士そのもの。現代の日本で生きてきた俺にとって、こんな生き死にの戦いなんて味わった事がない。額から冷たい汗が流れ落ちていくと同時に、背筋が凍り今にも震え崩れてしまいそうだった。

大上歳善 「どうした、せいきち?こんな老いぼれに足がすくんで動けんか?」

せいきち 「くそっ…」

大上歳善 「儂に忠誠心があるように、お主らにも戦う理由があるのであろう?ならば、儂を倒してその答えを出してみるがよい!」

せいきち 「うおぉぉぉ!」

俺は力の限り、大上に斬りかかっていった。

『ガキーンッ!』

なんと、大上は片腕で俺の刃を受け止めたのだ!

大上歳善 「甘いっ!甘いぞっ!そんな太刀筋では儂に触れる事すら出来ん!」

大上は俺の太刀を振り払うと、痛烈な拳を顔面に叩き込んできた。大上の腕には"鎖帷子(くさりかたびら)"仕込まれていて、太刀を躱しながらの攻撃をする忍びの業であった。

せいきち 「ぺっ!ちくしょっ…。」

たったの一度の殴打で口の中は切れ、血の味がさらに恐怖を感じずにはいられなかった。俺はもう一度立ち上がり、間髪いれずに大上へと攻撃を仕掛ける。そして、神道一刀流である降り下ろす太刀筋と見せ掛けてからの突きの攻撃へと切り替える技を繰り出した!

『ガキーンッ!!』

せいきち 「マジかよっ!?」

大上は脇差しを抜き、またもソハヤノツルギを弾き返したのだった。崩れた体勢の俺に大上は容赦なく一蹴を繰り出し、部屋の角へと弾き飛ばされてしまった。俺は脇腹の痛みを堪えながら起き上がり、再度、大上への攻撃に刀を構えた。しかしその瞬間、大上からの不意の突進による強打の追撃に俺は成す術がなく倒れてしまった。

大上 「もう終いか?もう少し骨のあるヤツだと思っていたのだが…見かけ倒しか、或いは…たまたま運が良かっただけかな。だが、その運もこれまで。儂の邪魔は誰だろうと許さぬ!」

大上は刀を振り上げ、剣先を真っ直ぐ俺に突き付けた。そして、止め刺そうとしたその時であった。

新之助 「うおおおりゃあああっ!!」

手下どもの相手をしていはずの新之助が助太刀に来てくれたのだ。

新之助 「遅れてすまねぇな。やっと雑魚どものは片付けた。ここからは俺が相手になってやるぜ!」

大上 「ふっ、笑止千万!お前らのような若僧がいくら束になろうとて同じこと。潜ってきた修羅場の数が違うところを思い知らせてやろうぞ!」

余裕の笑みを浮かべた大上に、新之助は神道一刀流を武器に攻撃を仕掛けていった。新之助の素早い太刀に大上は押され気味でいた。が、新之助の素早い太刀筋であっても、確実にそれを防ぐ大上は、もはや新之助の力量を見極めていたように思えた。早い攻撃を続けていた新之助は、一撃も与える事が出来ず、体力だけが消耗していった。そしてそれを待っていたかのように、新之助の呼吸が乱れ始めた。

せいきち 「逃げろっ!新之助っ!」

『ズバッッ!』

俺が声を上げたと同時に、動きの乱れていた隙をついて新之助は斬られてしまった。新之助の左腕からは血が滴り落ちていた。かろうじて致命傷は避けられたが、腕に負った傷は浅くなかった・・・。

 

つづく