~江戸~

聖也「また江戸に来ちゃったのかよ?麻衣の事も心配だし、何でまた俺が呼ばれたんだ!?」

俺は林の中を抜けると、やはりそこには江戸の町並みが広がっていた。しかし、このままの格好だとまた前みたいに怪しい奴だと思われ番屋に連れて行かれ可能性がある。一先ずここは、新之助の妹の家に世話になるしかない。俺は人目を避け、どうにか新之助の妹の家まで急いだ。

聖也「ドンドン!聖也…じゃなくて、せいきちです!おられますか?」

新之助の妹「あら、せいきちさん!お久し振り。兄から、せいきちさんは急に田舎に帰ったって聞かされていたのだけど、また江戸へ戻ってこられたの?」

せいきち「そ、そうなんですよ…。それよりちょっとご相談が。男物の着物をお借りできませんか?」

新之助の妹「ありますけど…どうしたのその格好?異国人みたいだねぇ!」

せいきち「すみません、ちょっと訳あって…」

新之助の妹「まぁ、上がって早く着替えて。そんな格好で町をふらついてたら、おかっぴきの旦那にすぐに目を付けられますよ。」

その場で俺は着替え、何とか怪しまれる事なく江戸に馴染む事ができた。妹の話しだと、新之助は今も江戸城で警護役として働いているとの事だ。何故、また江戸に戻ってきてしまったのか、理由を探るべく俺は新之助に会いに行く事にした。
門番に三田新之助を訪ねてきた旨を伝えると、新之助はすぐに俺の元へとやってきた。

新之助「おーっせいきちっ!久し振りだなぁ!元気にしておったか?」

せいきち「あぁ、新之助も元気そうで!それに貫禄が付いたんじゃないか!」

新之助「何を言う。俺なんてまだまだひよっこ扱いされておるよ。それより、どうしてまた江戸に戻られた?確か…未来とやらに帰られたのでは?あの時は、せいきちの姿が消えて行き本当に驚いたぞ!」

せいきち「あぁ、確かに俺は自分の産まれた時代に戻った。けど、何故かまたここに戻ってしまったのだ。もしかしたら、新之助やお菊殿に何かあったのかと思い訪ねてきたんだが、新之助も元気そうだし、お菊殿も姫として何事もなく過ごしてきるんだろ?」

新之助「俺は大丈夫だ…。だが、今城内では大変な噂が広まっているのだ。」

せいきち「大変な噂…?」

新之助「あぁ。俺も詳しくは知らされていないのだが、菊姫が城の宝を盗んだとか…。そして、今は地下牢に閉じ込められているらしいが、何せ姫君の問題ともあって家老が管理しておる。俺には成す術がないのだ。」

せいきち「そんな事が起きていたのか…。でもお菊殿が本当に盗みなんてしたのか?そんな事をするような人ではないだろう。」

新之助「当たり前だ!お菊殿がそんな事するような人ではないことくらい俺だって分かっている。しかし、確かめようがないのだ。…そうだ!せいきち、お前が確かめてきてはくれんか!?」

せいきち「えっ!どうやって?俺みたいな部外者が簡単に入れる訳ないだろう…」

新之助「確かに簡単には忍び込めん。だが、俺と組めばどうにかなるはずだ!」

せいきち「どうにかって、もし俺や新之助の仕業と分かったら、新之助も今のお役にはいられないぞ!下手したら打ち首もんかもな。」

新之助「あぁ、そうだろうな…。でも、このままではお菊殿が打ち首に合うかもしれないのだぞ!せめてどんな理由があったのかだけでも俺は知りたい!」

せいきち「・・・分かった。」

新之助「かたじけない、せいきち。明日の夜、またここに来てくれるか。俺が見張り役をうまく誤魔化すから、その間にお菊殿の所まで行ってくれまいか?」

せいきち「あぁ。また明日の夜に来る。」

そう約束すると俺は城を後にした。まさかの事態にまた飛んでもない事に足を踏み込んでしまったのだったが、お菊殿の安否も気になる俺は、新之助の協力のもと城へ忍び込む決意をし、一旦、新之助の妹の家に戻ったのだった。

新之助の妹「お帰りなさい。兄には会えましたか?」

せいきち「はい、会えましたよ。元気にお役目をこなしておりました。」

新之助の妹「そうでしたか。せいきちさんは今お仕事は?」

せいきち「いや、俺は色々あって…」

新之助の妹「いつも腰に差していた刀はどうしたのですか?あんなに大切そうにしてたのに。まさかお金に困って質に入れたとか?」

せいきち「いえいえ、刀は大事に保管してありますよ…、刀!?そうか!」

俺は妹からの問いに大事な事を思い出した。あの祠の下には"ソハヤノツルギ"がある事を。ソハヤノツルギには家康様の不思議な力が込められている。何かあれば助けになるかもしれない。俺は新之助の所に行く前に、祠からソハヤノツルギを掘り起こしてから行く事に決めた。

せいきち「また、お前に会えてたな!」

ソハヤノツルギを手にした俺は夜になるのを待った…。

新之助「せいきち!ここだここだ。」

せいきち「準備はできているのか?」

新之助「あぁ、だいたいの地図は用意しておいた。城に入り、俺が門番を引き付けておくから、その間に地図を頼りにお菊殿の所まで行け!そして、何があったのかを聞き出したら、またここへ戻ってくるのだぞ。よいな!」

せいきち「分かった!」

俺と新之助は城の中へと進み出した。そして、入り口の前に着くと新之助は門番に話し掛け、侵入の合図を俺に送ってきた。すぐさま門番の視界から離れ、こっそりと城内へと入る事ができ、俺はお菊殿が閉じ込められている牢へと急いだ。
城内は明かりが乏しく、ろうそくの僅かな光がだけが頼りになった。途中、警護役の見回りも遭遇し、息を殺して見付からないよう先に進んだ。地下へと続く木製の階段は、俺の侵入を邪魔するかのように軋み、額からは冷や汗が流れ始めていた。

せいきち「新之助の地図によれば、この先にお菊殿はいるはずだ!」

幸い、牢の周りには見張り役はいないようだ。ゆっくり近付き、柱の影から牢の中を覗き込んだ。そこには、煌びやかな着物を着たお菊殿が、物思いにふけた趣で佇んでいたのだった。

せいきち「菊姫様…菊姫様!」

菊姫「えっ!どなたです?」

せいきち「俺です!せいきちです!」

菊姫「えっ!せいきちさんなの!?本当なの?」

せいきち「はい!また江戸へと戻ってきました。」

菊姫「せいきち…、やっぱり来てくれたのですね…。わたし、もう駄目かと思っていたの。それで、最後にこの守り袋の神様に祈り続けていたらせいきちの事を思い出して。そしたら、いつの間にか神様じゃなく"せいきち、助けて"って言ってた。」

せいきち「そうだったのですか…。それで合点がいきました!俺、約束しましたからね。また会えるって!」

菊姫「ありがとう来てくれて。それと、菊姫じゃなくてお菊でいいわよ!」

せいきち「は…はい!…まぁ挨拶はこれくらいにして、それより何があったのです?なぜ、姫君になられたのに、こんな薄暗い牢に閉じ込められてしまったのです?」

菊姫「…それが、わたし、盗みの疑いを掛けられてしまって。吉兆の軍配という徳川家で重宝されてきた品が宝物庫から無くなってしまったのです。」

せいきち「本当にお菊殿は知らないのですね?」

菊姫「はい。」

せいきち「では何故お菊殿が牢に入らなくてはいけないのですか?」

菊姫「最後に宝物庫に入ったのは、わたしがだけなのです。それまでは確かに軍配はあったと…。」

せいきち「お菊殿は何故宝物庫へ?一人で行ったのですか?それとも何かの理由があって?」

菊姫「・・・」

せいきち「教えて下さい!俺を信じて下さい。必ずお菊殿の疑いを晴らしてみせますから!」

菊姫「・・・」

家老「そこで何をしておるっ!」

せいきち「はっ!ヤバい見付かった!?」

家老「うむ…お主は確か…」

せいきち「あっ!大上様、すみません!せいきちです!以前、お会いした事があります。」

家老「おぉ、やはりお主であったか。だかこんな所まで忍び込むとは、正気の沙汰ではござらんなぁ。誰かに手引きでもされたか?」

せいきち「いえ…私の独断でございます…」

家老「ふっ、ではそういう事としておこう。」

せいきち (…ヤバい、完全に新之助の仕業だと見透かされている…)

家老「菊姫を助けに来たのか?」

せいきち「はい。それもありますが、何より、菊姫様が盗みをするなんて信じられなくて…。真相を確かめたくてここまで来ました。」

家老「そうであったか。よろしい、ではせいきちに機会をやろう。菊姫様はあと二日後には何らかの沙汰を受けよう。その残り二日で吉兆の軍配を探し出すのじゃ。さすれば菊姫の疑いも晴れ、せいきちの城への侵入も水に流してやろう。どうじゃ?やれるか?」

せいきち「…二日ですか…。分かりました。私が吉兆の軍配を探し出してみせましょう!」

家老「おぉ、よく言うてくれた!お主ならあの時と同じように、徳川家を守ってくれると思っていたぞ。儂も出来る限り協力するから何かあれば聞いてくれ。では頼んだぞ!」

そう言うと、家老の大上歳善様は俺たちの前から姿を消した。

 

つづく