~玄武との戦いに勝ち、平穏な暮らしを取り戻した「せいきち、新之助、お菊」。

しかし、突如三人の暮らす家に見知らぬ老人が・・・それは徳川家の使いの者だった。

言われるがまま城へと行くと三人の前に現れたのは二代目将軍、徳川秀忠であった~

 

 

「説明しなくても儂が誰だか分かるな!?率直に言おう。この度の影働き、お主らの活躍、誠にご苦労であった。改めて礼を言う。玄武とか言う輩の始末、誠に見事であった!」

「手前、三田新之助と申します。この度の件、上様が何故ご存知なのでしょうか?」

「うむ…、お主らが鏑木藤十郎屋敷ないにての抗争、しかと密偵より報告の伝えがあった。鏑木が徳川に背き、玄武なる反幕府に内応している事も承知である。そして、その反幕府一味に対し、せいきち及び三田新之助の両名が応戦している事も承知していた。そこで幕府としてはお主らの行動を密偵を通し探っておった訳だが、先日の玄武との戦いにて打ち負かした事、見事であった。そこで、この度の働きに褒美を取らせようと思い呼集願ったのだ」

「褒美だなんて、拙者もせいきちも、ただ…ここにいるお菊殿を守る為にしたまでの事でございます」

「確かにきっかけはそうであろう。ただ、その結果が幕府を守る事にも繋がったのだ。そして何より、お菊の命を守ってくれた事に儂は感謝しておる。腹違いとは言え、儂に妹がおったとは驚きであったが、父、家康の手記を改めて見直していると、ある腰元との間に親密な関係があったのではないかと疑われる文面が記されている事が判明した。そして、とある帳面の間からは一枚の"書き付け"(メモ)が見付かった。そこには、

『野に咲くや 尊し我が子 菊の花』

この句を見付けた時、お菊さんが間違いなく父の隠し子だと確信したのだ。父も身分違いとはいえ、相手が腰元ゆえに仕方なく手放す他に手がなかったのであろう。お菊さん、勝手な話しで申し訳ないが、どうか父を許してやってほしい」

「…わたしには…亡くなってしまいましたが、育ての父も、最後まで守ってくれた母もおりました。何不自由なく幸せに暮らしてきました。本当の父が家康様であったとしても、恨むような事はございません」

「それを聞いて安心した。そこで、儂からの提案だが、三田新之助及びせいきちを江戸警護役大番頭として迎え入れたい!どうじゃ、やってくれまいか?」

「ほっ、本当ですかっ!? せいきち、これは大出世だぞ!」

「・・・」

「そしてお菊さん、いや、菊姫。菊姫にはこの城の妹君として是非とも江戸城に来てもらいたい。菊姫なら、町の人々に寄り添った良き政を提案してくれるはずじゃ。儂に力を貸してくれると信じておる。どうじゃ?」

「・・・」

「今すぐにとは言わん。どうか三人の力をこれからの日本のため、庶民のため、江戸幕府に尽力してもらいたい。少し考えてはもらえぬだろうか」


俺たち三人は一旦それぞれの思いを内に秘め帰路に着いた。新之助は鏑木家の家臣であったが、あの一件から浪人となってしまい、思いもよらない出世話しに上機嫌になっていたが、俺とお菊殿はどうもやるせない感じでいた。帰宅すると新之助は宴とばかりに酒を用意し呑み始めた。が、やはりお菊殿は"心ここに有らず"のままだった。

「どうしたのだお菊殿!いえ、もう今度からは気軽に呼べないですな。俺もせいきちも今後は本丸直属の警護役!お菊殿は姫ですぞっ!嬉しい限りではござらんか!」

酒が回り饒舌になった新之助は浮かれる一方であった。俺にしたって、この時代の人間なら心置き無く喜べるだろう。しかし、やはり元の時代の事も忘れた訳ではない。本当に俺はこのままでいいのか、まだ迷っていた。そして、お菊殿も素直に喜べない様子は変わっていない。

「お菊殿は何を悩まれているのですか?」

「…わたしが姫だんなんて、考えもしなかった。わたしがお城に入ってしまったら、もう簡単には皆とも会えないと思う…。わたしは今の生活でもとても幸せです。せいきち、わたし…どうしたらよいか…」

俺はお菊殿に何も答える事ができなかった。当然、姫として城に入れば何不自由なく暮らせるであろう。しかし、姫ともなれば城の中での生活が中心となる。もう、簡単には会えなくなるどころか、話し掛ける事すら制限されてしまう。たが、城に残れば、万が一の奇襲には安全なのかもしれない。俺も正直、お菊殿を本当に守り切れるのか、今になって考えさせられてしまった。

つづく