■声劇「戻らない砂時計」

■作:がみのろま

■人数:2名(男性1名/女性1名)

■曲:「月光花」Janne Da Arc

∟こちらをインスパイアして書いています

 

■プロット
梗介の部屋のベッドサイドには、一輪の桔梗と砂時計が置かれている。砂時計は数年前に恋人の咲希と一緒に買ったもの。梗介と咲希は、突然降り出した雨に、同じ場所で雨宿りをしたことで出会う。互いに惹かれあい、交際に至るも咲希に富士の病が襲う。
咲希は梗介に愛の言葉を残し、この世を去る。梗介は壊れたように泣き出す。

■登場人物
●梗介(きょうすけ)
サラリーマン。咲希を愛しており、結婚まで決めたいた。死後1年が経過した今も尚、彼女を想い続けている。
優しく、素直な性格。柔和な笑顔が特徴的。あまりアクティブな性格ではないが、咲希と付き合いだしてから、デートとして色々な場所に行くようになる。
部屋には余計なものを置きたくないタイプで、整理整頓されているが、咲希との思い出の品は様々な場所に飾られている。

○咲希(さき)
花屋を営む女性。梗介を最愛の人と思っている。
明るくポジティブな性格で、好奇心旺盛。
病魔が襲ってきても、いつも笑顔で梗介との時間を楽しむ。
アクティブなタイプで、休みが合えば無理やりにでも梗介を引っ張りだし、外でデートする。花が大好きで、部屋の至るところに花が飾られている。
入院後は、梗介が花を買ってくる。

■本編

●場面1:【現在】梗介の部屋。夜。雨が降る窓の外を見つめる梗介
○SE1:雨音

梗介:「(独り言)あの日も、こんな風に雨が降ってたな……」

○SE2:砂時計の音

●場面2:【過去】咲希の花屋の軒先(閉店後)

梗介:「なんで急に雨なんか降ってくんだよ。しょうがない。ここで雨宿りするか」

○SE3:自動ドアが開く音

○SE4:ぶつかる音

咲希:「きゃっ!」

梗介:「あっ、すみません」

咲希:「いえ! あっ、さっきまで晴れてたのに、雨降ってきちゃったんですね」

梗介:「えぇ。あっ、この花屋さんはあなたのお店ですか?」

咲希:「はい! 」

梗介:「そうだったんですか。いくら閉店後とはいっても、勝手に雨宿りして申し訳ありません」

咲希:「構いませんよ。その代わり……」

梗介:「その代わり……?」

咲希:「今度は営業中に来て、一輪でいいのでお花を買ってください」

梗介:「分かりました。あっ、雨止んできましたね」

○SE5:砂時計の音

●場面3:【現在】梗介の部屋

梗介:「あのとき雨が降らなければ、俺たちは出会わなかったのかな? 咲希、君はあの雨をどう思ってる? あぁ、そういえば、今日は桔梗(ききょう)の花を買ったよ」

○SE6:砂時計の音

●場面4:【過去】雑貨屋でデート
○SE7:明るい感じの店舗BGM

咲希:「ねぇ、梗介。これ、お揃いで買おう?」

梗介:「これって、砂時計か?」

咲希:「うん!」

梗介:「いらないだろ。今はスマホで時間も計れるし」

咲希:「そういうことじゃないの! 同じ砂時計を持つと、逢えない日も同じ時間を共有してるって気がするでしょ?」

梗介:「じゃあ普通の時計で……」

咲希:「(食い気味に) これが欲しいの!」

梗介:「なんでこれじゃないとダメなんだ?」

咲希:「……砂の中に小さなお星さまが入ってるの、可愛いでしょ?」

梗介:「結局、可愛いから欲しいだけだろ?」

咲希:「うん!」

梗介:「分かったよ。それじゃ、お揃いで買おう」

咲希:「ヤッター! 梗介、大好き!!」


●場面5:【過去】病室。夜(梗介は退社後に毎日お見舞いに行ってる)

○SE8:救急車のサイレンなど、病院であることが分かる音

梗介:「咲希。調子どうだ?」

咲希:「(実はかなり弱ってるが無理をして) バッチリよ」

梗介:「いつ聞いてもそう答えるんだな。あっ、今日は桔梗の花を買ってきたよ」

咲希:「綺麗。ねぇ、桔梗の花言葉知ってる? ……(咳)ゴホッゴホッ……」

梗介:「大丈夫か? 無理しないでちゃんと寝ろよ」

咲希:「……ゴホッゴホッ……だ、大丈夫、だよ……」

梗介:「大丈夫じゃないだろう? 俺にくらい素直になれよ」

咲希:「ねぇ、梗介。星が綺麗……」

梗介:「星、どこに……?」

咲希:「あの砂時計の中にある星」

梗介:「あぁ、あの時お揃いで買ったやつか」

咲希:「うん。私の宝物なの。あれを見てると、梗介がいつも傍にいてくれる気がしてゴホッゴホッ……」

梗介:「もう何も言うな、休め」

咲希:「……梗介、愛してる……ゴホッ……」

梗介:「分かったから。少し寝よう? な?」

咲希:「……優しいところも、誠実なところも……正直なところも……」

梗介:「もういいから……少し休んでくれ。無理すると症状が悪化するぞ」

咲希:「……ゴホッゴホッ……梗介、私、本当は死にたくない! 梗介とずっと一緒にいたいよ」

梗介:「なら、ずっと一緒にいよう。俺会社辞めて、ここに泊まり込むから」

咲希:「それは駄目。……桔梗の花言葉はね、正直で誠実。誠実に仕事してる梗介が好きなの(にこりと笑う)」

梗介:「なんで君は、こんな時まで笑えるんだ……」

咲希:「好きな人の傍に居るのよ? 笑顔になるに決まってるじゃない……? 」

○SE9:心電図が止まる音(ピ、ピ、ピーーーーーー)

梗介:「お、おい、嘘だろ……咲希! おい! 咲希! しっかりしろよ!!先生! 先生!!   何寝たふりしてんだよ! おい! 起きろよ!! あぁぁぁぁぁ!!!!(我を忘れて泣き叫ぶ)」


●場面6:【現在】梗介の部屋

○SE10:砂時計の音

梗介:「咲希。桔梗の花言葉、他にもあったんだな。今日、花屋さんが教えてくれたよ。“永遠の愛”だってさ。俺たちぴったりだったな」

○SE⑪:砂時計の音

梗介:「なぁ、咲希、知ってるか? 砂時計ってさ、どんなにひっくり返しても、時間は戻らないんだ……。俺たちは、永遠にあの楽しい日々には戻れないんだよ」