3年前に亡くなった父のこと。

若い頃は大変な美男子で映画会社のスカウトが来たと言うのもさもありなん、という容姿だったらしい。

でも家庭を省みるタイプではなく、ギャンブルが好きで基本的に自分中心という人。

今思えば仕事もうまくいかず自己表現も下手なので、母に飲み屋をさせて生計を建ててた。母が「またお父さんがお金持って行った」みたいな愚痴をいつも言ってて。

母は働き者で明るくて社交的な人だったので商売は合っていたようで、そのおかげで私達は暮らすことができていたのだけど、母はとにかく忙しくて大雑把な性格というのもあって、食事は充分食べられたけど家は散らかってて暴力があって、みたいな。

笑っちゃうけど、その頃のドラマとかで親子が生き別れて暮らす、みたいな話しがよくあって、愛情に満たされない幼い頃の私は「どこかに私の本当の親がいて、いつか出会えて愛情で包んでくれるんじゃないか」と夢想したりしてたわけです。

考えてみれば父とちゃんとした話しはしたことがなかった。口下手で人を信用しないし、そもそも相手の目線に立って考えたりはできない人。思春期の私にそういう難しい性格の年代のずっと上の父の気持ちがわかろうはずもなく。

父としては良く稼げる金づるとしての母に対しては大事にしていた所はあったのかもしれないけど、子供は「飼ってやってる」ぐらいのこと言ってたし。

でもほんの少しだけ優しいところもあったんだ。

私が初めて一人暮らしする時、直前になってゴキブリが出たらどうしよう?と弱気になっていたら、「その時はお父さんを呼べ!」って言ってくれた。

私が息子を産んだ時、みんなお祝いムードでワイワイ話していたら、父だけが「お前は身体は大丈夫か?」と言ってくれた。

...いや、本当にそのくらいなんだけども。思い出したくもない暗い記憶でも、砂金を拾い集めるようにほんのちょっとの優しい記憶を辿るのでした。