マラソンランナーがトレイルランに適応するために必要なこと

トレイルシーズン間近。

・トレイルランに必要な練習

・マラソンとトレイルを両立するために

・厚底の優位性

この辺りの疑問の解決にもなるかもしれません。



●山に行くと腹が減る?
いきなりですが、トレイルランをしているとロードランと同程度の経過時間で「腹が減った」、「登りで力が出ない」という感覚を覚える人は多いと思います。「だから補給しなくちゃ」というのは正しく、実はその感覚は間違いではありません。でもその「なぜ」を考える人は少ないんじゃないでしょうか。


山に遠足行くと腹が減るのと同じです。だからトレイルランも遠足です。違うか。




●運動の主たるエネルギーは炭水化物
炭水化物→グルコース→グリコーゲンが基本のエネルギー回路です。食事パターンを変えることで運動の最初から脂質でエネルギー供給をまかなう回路を作ることができますが、それでも割合が減るだけで炭水化物は必ず使われます。炭水化物がグルコースとして変換され、グリコーゲンとして集合して肝や筋肉に貯蔵されます。運動中になると肝のグリコーゲンがグルコースとして血中に放流され血糖となり使用、筋肉のグリコーゲンは乳酸に一度分解されてから肝に運ばれ同じ動きをします(乳酸の話はまた今度)。
脳のエネルギーも血糖ですから、頭を使えば腹が減ります(その点でもロングレースでエイドでやることをメモしておいたりサポートがいることは重要)。難しく考えず、とにかく炭水化物はどんな運動にも必要だということで、特に強度を上げるほど重要になります。


ベストじゃないにしてもレース中にケーキもありなのよ。終わってからは最高。(メンタル的にも)。走る前はNG。

アルパジョンのチーズスフレ美味い。ホールで980円!(脱線しました)




●登り坂ではグリコーゲンの消費量が高くなる
運動強度に加えて「どんな運動なのか」、「どの筋肉を多く使っているのか」がグリコーゲンの消費に関わってきます。登り坂では平地と比べて脚部の筋肉を多く使用します。ですので、もし平地と同じ強度、例えば心拍数が同じだとしても、登り坂の方がグリコーゲンの消費が激しいのです。これは下りも同様です。
また、不整地でバランスを取ることで脚部はもちろん全身の筋肉を平地よりも使いますし、脚の置き場など考えることで脳を使い、グリコーゲンの消費が激しくなります。これが「山に行くと腹が減る」という正体です。



●厚底だとグリコーゲンの消費が抑えられる?
登り坂の理屈で考えると「厚底か薄底か」でも筋グリコーゲンの消費が変わってきます。厚底では下腿(膝下)の筋肉が薄底に比べて働かないため、グリコーゲンの消費が抑えられているはずです。単純に「脚にやさしい、脚を守ってくれる、ダメージが少ないからマラソンで後半失速しない」、という面もありますが、グリコーゲンを消費が抑えてられていることも関係あるかもしれません。ウルトラなら言わずもがな、です。
(とはいえトレイル、特にショートディスタンスでの厚底はマイナス面もありますので何を優先するかが大事です)


山で食べる飯が美味しいのはグリコーゲンが少なくなっているからです。(違います。その食べものが美味しいからです)



●山に強くなりたいなら山に行け
このエネルギー供給の流れは本番のそれと「同じ」ことをすることで改善されていきます。摂取そのもの、つまり胃からエネルギーが吸収される流れもそうです。だから目標とする種目の真似をするだけでは足りず、やはりトレイルランを目標とするならトレイルランをしなければいけないのです。
「補給の練習」なんて良く言いますが、これもエネルギー吸収の流れを改善するために必要なんですね。1時間あたりで吸収できる糖質の割合が練習次第で倍になるとも言われてるほど。もちろん(ざっくりですが)筋力や筋量などもロードランとトレイルでは違ってきます。適応してくる訳です。これが変わればやはり必要なエネルギー量も変わってきます。トレッドミル傾斜走が実際の山と似て非なるというのはココにあります(それはそれで鍛えられる能力があるし優位なこともあるので私も使ってます)。


近くの公園でも良いからとにかく行こう。標高低くてもまずは行こう。




●マラソンランナーがトレイルランに適応するために必要なこと
「シーズン1発目のトレイルは上手く走れない」、「登り返しの脚がない」。これは私もいつも経験することで、冬季にマラソン練習をしたり、故障期間にバイクや水泳しかしていないと必ずこうなります。だから「山に行こう」は正しいロジックで、感覚的に分かっている、間違ってなかったという方は多いのかなと思います。
そうなるとマラソンランナーがトレイルランに適応するために必要なのは、やっぱり「山に沢山行くこと」。ただ山に行くと距離は稼げないしタイムも遅い。これが気になって結局ロードばかりになって「レースだけトレイル」というマラソンランナーは、いつまで経っても山に強くなりません。それでも正直、山に行くのが義務感になると続かないと思います。やっぱり山が好きか。もしくはよっぽどトレイルレースで結果が出したいから理屈を理解してトレーニングとして行くか。これを理解した強者マラソンランナーはトレイルシーンのトップに踊り出ると思います。それでも、とりあえずその日のパフォーマンスを出したいなら、練習で山に行ってなくても当日のレースはしっかり補給する。これだけ意識しましょう。(走る直前安静時の高糖質は筋グリコーゲンの消費を早めて早く疲労するからダメよ)


トラックレースも時期を考えつつ目的を持って走らないとダメよ。



●全ての能力はトレードオフ
「んじゃ山に沢山行ける人は強いんか」と言われれば、そんなに簡単な話ではないのがランニングの面白いところで。全ての能力は必ずトレードオフなんですね。何かを得たり鍛えようとすれば必ず失われていく能力があります。簡単に言えば「トレイルランばかりしてると走力が落ちて結果的にレースタイムが落ちる」ということです。トレイルランに慣れてエネルギー供給も筋力もバッチリ、となったところで、身体を速く、大きく動かす筋力だったり、LT値などが落ちてしまえば相殺される訳です。(ざっくり言うと、ですよ)
だから「どの能力を鍛えるか」という期分けが大事になります。しかも数ヶ月単位でないと効果は出ませんから、目標レースまでの計画が大事になる訳です。「目標レースに1番必要ない(遠い)能力から鍛える」のはそのためで、例えば100マイルのトレイルなら、まずスピード、その後徐々にロングとトレイルにシフトしていきます。最初に鍛えた能力を薄めながら、レースに必要な能力を高めて、最大限のパフォーマンスの出せる位置で折り合いをつける訳です。


トレイルランナーも期分けを意識してマラソンを走れば良いし、マラソンがメインの人もオフシーズンのトレーニングとしてトレイルを走ってみよう。




【まとめ】
・腹が減ったら食え
・山に行け
・全ての能力はトレードオフであることを理解する
・とりあえず食え
・結局山好きな足速い人が最強(誰とは言わん)
・山の近くに住んで練習を選択できたら最強(標高が高ければなお良し)
・それでも食え
食べる練習。レース中も食べられるものを探すことも忘れないで。