名作の楽しみ‐585 バルザック「ゴリオ爺さん」
この名作を読むのは確か2度目だと思う。バルザックは「谷間の百合」でも有名だが、この名作はあのサマセット・モームの「世界十大小説」に入っていたと思う。人間の浅ましさ、悲しみが詰まった大作である。パリの下宿屋が舞台。そこには、パリ大学に通う田舎貴族、医者を目指す学生、兄のために莫大な財産を横取りされた娘、世間から身を隠す囚人、そして、ゴリオ爺さん。主役は田舎貴族とゴリオ爺さん。ゴリオ爺さんは製麺製造で大金持ちになったが、二人の娘を貴族に嫁がせ、莫大な持参金とその後の亭主どもの借金のために金を出し、貧乏を極めている哀れな老人。娘に会うことだけが楽しみだが、娘は金が必要な時だけゴリオ爺さんを大事にしていて、この頃ではほとんど爺さんをないがしろにしている。田舎貴族はその妹に近づき、恋愛関係にあり、社交界への道を探っている。ゴリオ爺さんは彼を息子と呼び信頼している。そして、ゴリオ爺さんに臨終のときが迫ってきた。彼は娘に来るように懇願するが、娘も連れ合いとのいざこざで来ることが出来ない。その臨終の苦しみが延々と描かれ、その迫力に圧倒された。田舎貴族は誠心誠意彼の最後を見届け、埋葬まできちんとしてあげる。娘たちは埋葬にも立ち会わない。最後に田舎貴族がパリの街を眺め、社交界での成功を誓う。物語性、文章力は抜群であり、モームが世界十大小説に挙げただけのことはあると思った。こういう作品を読むとやはり心が豊かになることを改めて実感した。
