あなたの足先 | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説


姉様、只今出張中デスヽ( ̄д ̄;)ノ
真凛のちょっと遅い夏休みでお願いシマスヽ(;▽;)

国境の砦のお話をお送りシマス❤︎





ー足先ー

俺が着いた時、ルビは朽ちかけた寝台で死んだように眠っていた
そんな姿を俺は見た事がなかった

「ルビ、ルビ・・・」

泣きながらその寝台の脇で跪きルビに縋って泣いた
いつもならば片目をそっと開け寝たふりをして俺の様子を伺っている
しかし俺が何度呼び掛けても目を開ける事はなかった

「心底疲れている」

不意に扉が開き将軍が入ってきてそう言った
俺は振り返りざまに立ち上がり将軍の胸ぐらを掴み力の限り引き寄せた
普段の将軍ならばそんな俺を振り払いこう言う
「落ち着け」
しかし、俺が引き寄せるままに体を預けてきた

「ただ眠っているだけだ、目が覚めた時にお前が傍にいればすぐに元気になる」

俺はなんと軽口をたたくと思い堪えきれない涙を見せまいと俯いた
将軍の足首には真っ赤な火傷の跡があった

「此れは」
「あぁ、久しぶりで加減が分からずやってしまった」
「まさか」

どんな戦いにおいてもご自身の力を使うことなどしなかった将軍が、秘めた力を使われた
一体どんな事があったのか

「出来るだけ長引かせたくはなかった」
「ルビは、何をしたのです」
「虎を十匹ほど出した」

将軍は苦虫を噛み潰したように笑い溜息を吐いていた
ルビの出す虎の事は知っている
其れは自分の分身だというが、十はやり過ぎだ
俺は将軍から手を離し寝ているルビの方を向いた

「貴女は俺がいないと何をするか・・・」
「お前も苦労する」

将軍はそんな俺の肩に手を掛けそう言った
「お前も」か
貴方もですか、親父殿



三日三晩眠ったルビに俺とヌナが交代で付き添った
寝汗を拭い、水を飲ませ、着替えをさせる
ぐったりと四肢を投げ出す姿は、その目が俺を見る事はないのかと不安にさせた

「ヌナ」
「心配しないで・・・大丈夫よ」

俺を励ますヌナの目の下には大きなクマができている
「ちぃっと眠られては」
「貴方こそ少し横になったら?」
お互いに顔を見合わせ言い合うが、一向に動こうとしなかった
四日目の朝だ
俺は顔を洗いに水場に向かい、ついでに体を洗った
朝一番の汲みたての水を火にかけぬるい湯にし桶に入れる
ルビもさっぱりしたいだろう
アイツが眠ったままの部屋に向かった

この扉を開けたら「よく寝た」と起き上がっているのならば
俺は押し潰されそうな思いで扉を開けた
ルビが寝ている寝台の端がチラリと見える
白い足先が捲れあがった上掛けから覗いていた
桃色をした爪、小さい踵、綺麗に弧を描く足底・・・

「?」

あんな足底をしていただろうか
親指にマメがある・・・?
俺は桶を足元に置き、寝台まで走った
捲れ上がった上掛けから見える足を両手で掴みもう一度見る

「この足は誰の足だ!」

そう言った時に後ろから生温かい息が吹きかかり両肩に重みが乗った
まさか
俺は慌てて振り向こうとしたが、僅かに首を動かしただけに止まった
黒い獣の舌が俺の耳をペロリと舐めていたからだ

「他意はない、ルビの足か確認しただけだ」

しかし鋭い目は俺を睨みつけたまま低い唸り声をあげたままだった
ほんの十五年前俺はこの方に心底惚れていた
俺の事を好きだと言ってくれたなら手を取り逃げようと思った事もある
しかし、今はこの白い足を見たとしてもなんの感情も湧きはしない

「ちょっと、かあ様の足を抱えたまま何をしているのよ💢」
「目がさめたのですか」
「何が目がさめたのですか?よ。見たわよ、私」

俺はヌナの足先を放りなげ、仁王立ちのルビの元へ駆け寄り抱きしめた
抱きしめた体は、この数日で折れちまいそうなくらいに頼りなくなっている
俺は壊さないようにそっと包みこんだ

「どうして、遠目でも私の足先とかあ様の足先が分からないのよ」
「かっ確認ですよ」
「私はね、父様の足先と貴方の足先は一瞬でわかる💢」
「そうですか?」

普段どおりのルビの言いように俺は心底嬉しくなった
良かった、良かった・・・俺のルビが戻ってきた

「シンの足先は」
「俺の足先は?」
「つるってしてる」

貴女はいつも俺しか見てない
俺はその事に甘えていたのかもしれない