光の向こうへ ④ | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



コロンと丸い体を揺すぶりながら寝室のドアを開け入ってくる
カーテンが自動で開くボタンに手を伸ばし押すと同時に

「坊っちゃま、朝ですよ」
「ああ、起きる」
「コーヒーと新聞でございます」

香ばしい香りが鼻を擽り起き上がらねばと思う瞬間だ
瞼にかかった髪を手で払い、コーヒーに手を伸ばす

「ベッドの上でなどなりません」
「分かっている、ほらもう立った、此れでいいだろうテソン」
「よろしゅうございます」

縁のあった者はやはり私の側にいた
テソンは昔より口煩く、俺の行動に干渉的だ
唯一違うところと言えば、この世では僅かではあったが祖父に出会えた
幼い頃に大切にしてもらい、囲碁と将棋、経営術と言う強かさを教わった
母はやはり体が弱く空気の良い海外の保養地へと父と行ってしまった
「生きているだけ良い」
父から事業を受けついだ叔母上は、俺が大学を卒業するまで代表をするらしい
「坊ちゃん。貴方が成人するまでと言っていますが、あの女はきっと会社を乗っ取ってしましますよ。私に権限を」
チョ・イルシン専務が俺の耳元で囁いたが、お前には何度も騙されていると思わず言ってしまいそうになったぞ
「叔母上が乗っとるなら仕方がない。私は従いますよ」
「坊っちゃま。貴方はこのチェセキュリティグループの長なのですよ」
「イルシンさん、会議が始まる時刻ではないでしょうか、行ってください」
俺は、品よくイルシンを部屋から追い出した
「コイツもいるのだな、面倒だ」
朝のコーヒーが不味くなる

「坊っちゃま」
「テソン、その坊っちゃまはもうよしてくれ」
「ですが、坊っちゃまは、坊っちゃまです」

テソンと離れたのは十六の時だ
それより先は送りだすまで一緒に過ごす事はなかった
あの方が「屋敷(テソンのいる)に行きたい」と言ってもあの時は叶えることはできなかった

「今日は大学へ行く」
「おも、いつもオンラインでと言われるのにどうしました?」
「探しものがある」
「どちらにせよ、お出になるのは良い事です」

テソンはワードローブにいそいそと向かい、俺が着る服を合わせだした
「此処からが長い、衣など数枚であればこう時間がかからぬのに」
「何かおっしゃいましたか?」
「何も言ってない、シャワーを浴びる」
「バスローブをお忘れなく、この間みたいに裸で出てきたら他のメイドが倒れてしまいますよ」
「タオルはしていただろう」
「あなた様は分かってないのです。女の目は都合が良いことを」

テソンの一番変わったところと言えば、遠慮が無くなったことだ
なぜだか俺には本当の母と話しているようで嬉しくもあった

「そうです、ミギョン様が」
「叔母様がどうした」
「この間の件、進捗をお話したいと言っておられましたよ」
「そうか、連絡すると伝えてくれ」
「あと」
「まだあるのかテソン」
「ヨジョン姉さんから電話がありました」

バスローブを掴みバスルームへ向かおうとしていた俺の足が止まった
あの穴から今出てくるとは思えないが

「ハルモニは何と?」
「坊っちゃまの服を貸したと言ってました」
「それだけか?」
「ええ、ヨジョン姉さんが貸してもいいかと聞いてきて駄目だとは言えないですから」

同じようなシャツの中からどこを基準に選んだのか、一枚白いシャツを手にしてテソンは出てきた
パンツはアンクル丈にしたようだった

「お着替えはこちらに置いておきますよ、坊っちゃま」
「わかった」

俺の服を着れるほどのガタイのいい男が、ヨジョンの前に現れたということか

「大学へ行くのはやめる」
「はぁ?坊っちゃま。ではどちらに行かれるのです」
「坡州市へ、ヨジョンのところへ」






掴んだバスローブを肩に掛け、大股でバスルームへと向かった
ガラスばりの区切られた中は大人二人は有に入れる大きさだ
ゆっくり湯になど浸かってはいられない、二十年待ったのだ
あの方を迎えに行ったのは、何年だったのか
そのような事を聞く術もなかった

「私が20歳ということはあの方は24くらいだと思うのだが」

湯が熱すぎてのぼせてしまいそうになり、水に変えた
冷たい水が頭にかかり一気に目が覚めた気になった

「まだ十年へあるというのは事実だ」

長い長い時を待たねばならぬ
それでも俺は貴女を探し傍に行きたい