光の向こうへ ① | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



ペ・チュンソク

一足お先にまいります
私は皆を置いて踏み出した

「あの方を元の場所へ」

奥様お一人だけを現代に戻し、其れが幸せだと言うのでしょうか
我らは冥府の出口まで辿りついた時に問われた
最初に止まったのはトルベ
「隊長を守る俺達がその場にいなくてどうする」
トクマンは思案した後
「この思いを持っていけるでしょうか」と私に問うのだ
いつものように私は顎に手の甲をあて何度か摩り
「思いの深さしかないのでは?」
何も考えず、ただお側にと一心に願おうではないか

幸いな事に私の記憶は消されることなく転生をした
高麗時代の時とあまり変わる事はなく
やはり父は厳格な軍人であり
弟は病弱で気の優しい奴であった
「戦いぬき、肩に星を増やすのだ」
この時代にまだあの時と変わらぬ事を言うような人であった
それでも私が其処に留まった理由はたった一つ

「力が無ければ守れるものも守られぬ」

強い心と体をまず手に入れなければならない
そんな時ふと入った食堂で運命の出会いがあった
「いらっしゃいませ、何人さまで」
私の心臓が止まった
瞬きをするのも忘れ、ただ声の主を見つめた
「ひとりですか?」
「あっ・・・はい」
「どうぞ、お一人でも断りませんよ」
テーブルを指差し、私に椅子をすすめる
暫くするとガラスのコップに水を注ぎポンと置いた
「何にします」
「クッパで」
その女は私に背を向け厨房に「クッパ一つ」と口元に手をあて叫ぶ
明月だ
またあの方と出会う事ができたのだ

厳格な父のせいで最後まで籍を入れることなく終わってしまった
ただ一緒に住んでいるというだけのせいで肩身の狭い思いを何度もさせた
私は微笑みながらクッパを持ってきたあの方に
「毎日通います、なので一緒に食事に」
「食堂に来て、食事を誘う人ってはじめて」
「あっ、いえ・・・その変な男ではないのです」
「まず名前からじゃないですか?」
夢みたいな出会いじゃないか

「ぺ・チュンソクといいます、貴女は」
「私は、ミョンウォル。妓楼の女みたいな名前でしょ?」
「そんなことありません、綺麗な名前です」

奥様はよくこう仰っていた
「思いの強さがお互いを引き合わせるのよ」
「にしても私は妻に申し訳ない」
「プジャン、大丈夫」
貴女から大丈夫と言われると私は少し心が安らいだ

「毎日必ず来ます」

私に声をかける男の人は多かった
でもこの人のように嘘偽りがなく真面目な人はいなかった
毎日来てくれたら・・・

「じゃ・・・毎日遅くに来てもらえます?」
「は?」
「毎日夕食をここで一緒に」

貴女はあの時より鮮やかなチマを纏い、私の顔を見て美しく口の端をあげた
穏やかな日々は過ぎ、この時代は人前で指を絡ませ歩く事もできた
この時ならば父も許してくれるだろうと思っていたが
「どうしてお前というヤツは」
やはり此処は変わらぬものだ
「私は二度と同じ過ちはしないと決めています」
「何を言い出す」
「では」
ミョンウォルの手を掴んだまま父に背を向けた
あの時に何故これが出来なかったのか
「いいの、オッパ」
「すっきりしました」
私の縛りが一つ解けた





この頃やっと隊長と再会を果たした
あの方はまだ大学生で私の顔を見るなり
「探したぞ、チュンソク」
隊長と共にいる為に軍を辞めた
其れを風の便りに聞いた父は激怒し、たった一度会いにきて
「あんな女と付き合うからだ」言い捨て去って行った
ミョンウォルは相変わらず祖母から継いだ食堂をし
私は私の使命を果たすべく、医仙を探す毎日を送っている