女の唇 <Second story ⑧> | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



明日着るからと言われても
この地はそんなに天候には恵まれちゃいない
山間部は風は強いがその分気温もあがらない

「こりゃ〜乾かないな」
「ですね、隊長」
「今日は肌着で過ごしてもらうしかないか」

着替えの一枚も持って来なかったのかあの女将軍
顔でさえも布で覆って見せやしない
髪は豊かで俺が知る誰よりも明るく
産まれたばかりの赤子のような鳶色をしている
額は白く布を掛けている耳も同様で張りがある
目は大きく俯くと長い睫毛が瞳を覆っていた

「妓楼で出逢ったなら一発で手を引いちまう女だな」
「そうですか、私にはそこまで」
「馬鹿者、お前には十年早い」

のっぴきならない理由があって来たにないのは分かる
でなければ誰も此処に来ないのさ

「乾かねえと俺が言ってくる」
「たいちょ〜」
「安心しろお前のせいじゃない」

願うようにならなければ鞭の一発でも食うだろう
しかしジュノは精一杯した
明日着る衣の前の日に出し乾かせは
此処の雲合を知っちゃいないってことさ
ギシギシと鳴る廊下を歩き隊長の部屋の前まで行った

「ユ将軍、起きていますか」

返答がない、まだ寝ているのか
仕方ねぇ、俺はもう一度声をかけ
部屋に入るとちゃんと伝えたさ

「では」

昨日動かした寝台は此方からは見えない
中は窓枠が壊れているせいか冷んやりとしていた
今まで気づかなかったな

「将軍、実は」

窓の方を頭に入口の方に足を向けて寝ているようだった
上掛けですっぽり身を隠しているのだが
白い足先がちらりと見えていた
女の素足を見たのは初めてだった

「す、すみませぬ」
「なに?あやまるような事をしたの?」
「あ、いぇ・・・その」

ユ将軍は、上掛けを両手で持ち上げ体をむくりと起こした
顔を覆っていた布がない

「将軍、布が・・・」
「あ、マスクね。いいのよ」
「では何故昨日はしていたのです」

違うわ、あなたにはいいのよ
ほら、顔を知られないのは有効に使えるじゃない
それに幾らでも変装ができるわ

「では、何故俺にはよいのですか」

あなた隊長でしょ?
私の顔を知ってもらってないと何かと不便じゃない

待ってくれと制したのにあの女は寝台から起き上がり
乱れた肌着のまま俺に近ついてくるのだ

「なにご飯?」
「此方を向かないでくれ」
「あらあなたが後ろを向いたら?」
「不敬罪になります」
「見る方が不敬罪だと思うわよ・・・小さいけど」

何処が小さいというのか
顎の輪郭は、俺が思っていた以上に幼く
額から頬にかけての横顔がふっくらとしていた

「昨日お預かりした衣ですが」
「乾かなかったのね」
「分かっていたのですか、では何故に」

はっきり分かっていたわけじゃないわ
乾燥をしていても衣が乾くほどの地域じゃないって事ね
いいのよ、代わりを着るから

衝立の向こうで衣擦れの音がした
上の肌着を脱ぎ、下の肌着の紐を解き落とした
こんなに間近で女が着替えるのを聞いたのは母以来だ

「でも、これしかないのよ。今日はこれで許してね」

衝立の向こうで一枚づつ衣を重ね紐が何度か結ばれる音した
どんな格好で許せと貴女は言うんだユ将軍
淡い藤色をした上衣に同じ色の下衣
裾から見える真っ白なソッパジと赤い履物に目を奪われた

「相応しくないわよね」
「いえ、あっ・・・確かに」
「意外にね、急だったから着替えが間に合わなくて」
「その格好ででるのですか」

狩場に兎を放つようなもんだ
「暫くしたら着替えが届くわ、それまでよ」
「なりません、此処は貴女がいた都より物騒なのです」
「都の方が物騒な人は多いわよ、無理やり嫁にしようとする奴とか」
貴女を嫁にと言う男がいると言うことか

「こっちはね、欲しい男がいるって言うのに」

ぷっくりと赤い脣から出た言葉に俺は驚いた
欲しい男がいるだと、では何故に此処に着た

「行くわよ、隊長」
「はい」
「そう言えば隊長名前聞いてなかったわ」
「ヤン・セジョンと言います。セジョンとお呼びください」
「セジョン、ぜジョンね。あの子はジュノだよね」

長い髪を纏め一つに括りあげた
その後同じ色の顔を覆う布を手にし耳の後ろで結ぶ
不思議に結んだ紐が耳から長く垂れ飾りに見える

「食事はね、部屋でとるわ。取らないといけないから」
「皆にはみせぬと?」
「そうじゃない、今はその時じゃない」

貴女は俺の横を通り過ぎ前を歩こうとした
俺はそんな貴女の手を掴んだ

「俺より前に出ないでくれ」
「何を言っているの」
「貴女を守れやしない」





守ってもらわなくちゃいけない女じゃない
守りたい男がいるから今の私があるのよ

「見た目で勘違いするな、私は将軍だ」

左手に握り締めた五爪の皇龍剣がその容姿には異様に見えた
俺は見ちゃいけないものを見ちまったのかもしれない