男の唇 ③ | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



扉の前に踏み締めた足跡があった
一体どれだけそこにいたらそんな後がつくの
扉に手をかける事もなく
気配を消しさり、息遣いさえもせず
扉をただ凝視し立ち尽くす
真冬の夜は身体の全てを凍てつかせることでしょうに

「バカ、だわ」

その気配に気づかず揺れる蝋燭の灯りを見つめ続けていた

「(私も)バカ、だわ」

ジリジリと音をたて蝋燭芯が燃える
燃えついた蝋の香りが部屋に充満していた
その香りに眩暈がする

「どうしたのよ」

少年の眼差しで私に「ふるえてみませんか」と言ったくせに
王宮ですれ違ったら視線を逸らした
隣にいたプジャンはそんなあの人をちらりと見て
躊躇いがちに会釈した

「冗談だったっていうのね、そんなものなのよ」

私は、あの人流の冗談に惑わされただけよ
今までだってそんな事はいくらでもあったじゃない
賭けをするように誘いをかけて
その気にさせては「友達だろ」なんていう

「違うじゃない、ぜんぜん」

ただ立ち尽くしているなんて
その日から私は扉の外にいるあの人の気配を掴もうとした
コトリと小さな音がしただけで飛び起き駆けて扉の前にゆく
勢いよく開けようと思っても手は扉に届かなかった

ー王が医仙を必要としない者になったらどうするー
ー否、王が医仙を疎ましく思う者になった時どうするー

叔母上の言葉は俺の核心を突いた
心の臓が止まった
息ができねぇ

「その時は、あの方を担ぎ逃げます」

大人しく俺の背に収まってくれるだろうか
国を揺るがす時を迎えているだろう、その時に

「どのような者が君主になろうが、変わらぬのが臣下」
「叔母上」
「ゆえにお前の妻になる女は、普通の女であるべきなのだ」
「俺がふるえないようにか!」
「務めを簡単に思っていたというのか、お前は」

いつの間にか叔母上は立ち去っており
俺は回廊と回廊の真ん中にある石畳に立っていた
夜の暗い空から真っ白な雪が落ちてくる
俺の肩に降り積もっていた
落ちてくる雪を手の平でを受け止めた
あっという間に消えて無くなっちまう
あの方みたいだ
何度も何度も俺はその雪を受け止める
瞬く間に消えてしまっていた雪が
指先が痺れるくらいに震えだした頃
一粒、二粒と残りだし
手の平の形になった時、夜が明けた

「凍えるほど待てば、朝が来るのか」

膝がガクリと折れ、俺は雪の中に身を埋めた
見上げた空は鈍色に渦巻き光など見えない
それでも朝が来たと人は分かる

「ふるえちまうな」

赤くなった指先で俺は自らの顔を覆った
たまんねぇな
愛っていうものは・・・

雪でぬかるんだ道を歩いた
着いた処は、あの方の部屋の前
健やかな寝息をたて寝ていることだろう
その隣で俺はその姿をみつつ眠る事はないのだろう

「これが越えられないと言うことか」

否、あなたを見守り叔母上のいう通り
そっと還してやる、それも男の愛する想い
せめて毎夜貴女の傍で居る事を許しちゃくれないか

「居なくなったその日から俺は元にもどるゆえ」




貴女の頬に触れるように俺は扉に手の甲で触れていた
愛しています
生涯貴女だけを