「こんどの日曜日に競馬に行かないかい」ボクはフィアンセを競馬に誘った。「競馬ですか?」と彼女は拒否反応を起こしたが、それも一瞬のことで、「何事も経験ですから行きましょうか」と応諾した。
その日曜日がやってきた。街はクリスマスシーズンで活気づいていた。そんな雰囲気のなかをボクたちは競馬場へ足をはこんだ。
「もしも当たったら、クリスマスプレゼントにしますから‥‥」
「ほんとうかい、それは楽しみだな」
ボクたちは期待に胸を膨らませた。
それなのに、結果は無残なものですっかりつきの神様に見放されて、ボクたちはしょんぼり肩を落として競馬場をあとにした。
運の悪いときは悪いもので、にわかに北風が強くなりはじめている。ボクたちは身を縮めながら肩を寄せあって最寄りの駅まで歩きはじめた。北風は強くなるばかりだ。ふと、前方に目をやると、居酒屋の提灯が風にゆれているのがわかる。ボクはポケットのなかの小銭入れを揺すってみた。帰りの電車賃しか残っていない。
「オケラ街道とはよくいったものだよ」と、ボクはひとりごとをいった。
とたんに彼女は走り出していた。しばらくすると、ワンカップと手にもって帰ってきた。居酒屋から買ってきたのだ。
「どう、温かくなるわよ」といって彼女はワンカップを差し出した。
「キミ、さきに飲みなよ」というと、「わたしはいらないのよ」といった。
ボクは半分ほど一気に飲んだ。五臓六腑にしみわたっていった。
「クリスマスのプレゼントはわたしの小遣いで買いますから大丈夫よ」と彼女はボクの顔を見つめながらいった。
「そんなのいらないよ。これ以上のプレゼントなんかありえないんだから‥‥」といってボクは残りの半分に口をつけた。