時間だけが過ぎていく。
部屋にはゆいと父ちゃんと私だけ。
主治医T先生が、
「今日は家族の方は来られますか?
ここは誰が来ても大丈夫ですので!」
知ってる・・・
私は誰かに(家族に)来てもらおうと全くしなかった。
まだこう思ってる。
ゆいは死ぬわけない。
父ちゃんと順番に病棟にあるお風呂に入る。
前の部屋にはシャワーがあったが、PICUにはない。
私は潔癖ではないけど、どうにもこの病棟のお風呂には抵抗があった。
(ごめんなさい)
でも、実家に帰る時間があるならゆいのそばにいたかった。
だから、我慢して入った。(苦笑)
私がシャワーを浴びて部屋に戻ると、ゆいは父ちゃんに抱っこされ、振り絞るように泣いてた。
目は閉じたままだけど・・・
悲しそうに泣いてた。
泣いてるゆいを心配して看護師さんもいた。
父ちゃんは泣き止まそうとアタフタしてた。
私が抱っこすると、ピタッと泣き止んだ。
これは、いつもと全然変わらない。
いつもこの瞬間がすごくうれしかった。(笑)
ずっと眠ってようが、ゆいはちゃんと分かってる・・・
今日は金曜日、教授回診があった。
海坊主ではなく、優しいおっさん教授だった。
ベッドで眠ったままの診察。
診察してる教授は険しい顔をしてた・・・
他の先生も静まり返ってる・・・
ゆいはいやだろうな。がんばれ!ゆい!
診察が終わっても教授は言葉がないようだった。
いつもなら、「がんばろうね。バイバイ」で終わりだけど・・・
少しの沈黙の後、
「お母さん、何か困ったことありますか?」
と優しく聞いてくれたが、
困ったこと・・・
今の状態全部全部全部困ってる・・・
言ったらどうにかしてくれるのか!
ゆいを助けてくれるのか!
こう大きな声で叫びたかった・・・
「何もありません・・・」
この空間で、こう答えるのが精いっぱいだった。
夕方のT先生の回診も、険しい顔だった・・・
「ゆいちゃん、すごくすごく頑張ってますね・・・
すごく頑張ってる・・・」
ゆいはずっと頑張ってきたよ。
今もめちゃくちゃ頑張ってる。
だから助けてほしい・・・
まだ、まだこんな思いばかりだった・・・
ゆいが目を開けて口を動かしてた。
父ちゃんが酸素マスクをあて、私が抱っこして、口の中にスポイドでお茶を入れてみた。
ゴクリって飲み込んでる。
何か食べたいのかもしれない。
スプーンでヨーグルトを少しだけ口に入れてみた。
口を一生懸命動かしてるけど、飲み込めない。
舌についたのを舐めてる感じだ。
目は遠く一点を見てる・・・
マスクを少し離してるから、SPO2が下がる。
酸素が少しでもなくなるとダメだった。
少しすると、目を閉じた。
夕方父ちゃんは、ケーキとお寿司を取りに行った。
夜、お兄ちゃん夫婦が来てパーティーの予定。
ゆうくんは風邪をひいて熱があるので、残念ながら不参加。
ばあちゃんも仕事で遅くなるので不参加。
18時半パーティー始まり!
うるさかったのか、ゆいは目を開いた。
主役はわたしよ!って思ったのかな??
抱っこしてケーキを近づける。
ケーキはこれ!
ジャ~ン!!!
ハピーです!
ほんとゆいそっくりじゃわ~
(こんな目パッチリじゃないけど・・・)
ろうそくに火をつけると、ゆいはその火を見てるようだった。
ハッピーバースデイを大合唱。
「ゆいちゃん!おめでとう♪」
ゆいは聞いてたかな。
ろうそくの火を消して、少ししてゆいは目を閉じた。
この時父ちゃんがビデオを撮ってた。
でも、その映像は見たことない。
これより前に撮ってるのは見れるけど、この時のだけは・・・
写真もケーキしか撮っていない。
私はゆいが撮れなかった。
ゆいを囲んでワイワイしながら食べたが・・・
どんな味だったか、何を食べたか思い出せない。
ケーキの味さえも。
無理やり笑顔を作ってたと思う・・・
ゆいは大丈夫、ゆいは大丈夫。
1才6か月だって迎えられた。
まだ大丈夫、まだ大丈夫って・・・
ゆい、1才6か月おめでとう。
2才、3才・・・って毎年祝えるのが当たり前だと思ってた。
ここまでしかお祝いできなくてごめんね。