秘苑 25 | 水脈のブログ

水脈のブログ

読みきかせ記録(絵本等の紹介)と、自分の心に生じた想いや、刻まれた記憶を思いつくままに綴っています。
当ブログ開設当初から好きだった東方神起やジェジュン、ユンジェに関して。そして、2021年以降は、防弾少年団(バンタン:BTS)のことに、思いを馳せることも。

ユノは、とっさに、
“その者”を取り押さえた。
しかし、
懐剣を振りかざせないままでいた。
異形とはいえ、
ジェジュンの顔を持つ相手なのだ。

“その者”も、抗う様子を見せなかった。
周囲の者の眼には、
ユノと、異形のジェジュンとが、
抱き合っているかのように映っている。

銀河(ウナ)が、苛立って叱咤した。

「何を迷ってる⁈
今を逃したら、また、
ジェジュン世子邸下に、危害を及ぼし、
今度こそ、命を落とすかもしれないのだぞ。」

ユノは、躊躇した。
すると、
洪(ホン)尚膳に支えられたままだった
ジェジュンが叫んだ。

「止めて!殺さないで!」

そして、ユノに、命じた。

「“その者”をこちらに。」

ユノは、頷いて、
ジェジュンに近づくと、
慎重に、“その者”を手渡した。
ジェジュンは、“その者”を両手で受け取ると、
懐深く、抱いた。

目で訴えたユノの声なき言葉を察した
洪尚膳が退がり、代わって、
ユノがジェジュンを、
背後からしっかりと抱きしめるように支えた。

ジェジュンは、“その者”に、優しく語りかけた。

「今まで、何も気づかなくて、
ごめんね。
夢に何度も現れてくれてたのに、
会いに来てくれてたのに…。
ぼくが逃げまわってばかりで。

怖がらずに、
ちゃんと、向かい合い合わなきゃ
いけなかったんだね。

キミは、もう一人の  “ぼく”だったんだね。
ずっと、辛かったんだよね。
寂しかったんだよね。

会いにきてくれて、ありがとう。

でも、この身体は、渡せない。

ぼくもこの姿で、生きたいんだ。
今のぼくの魂で、生きたいんだ。

キミの分まで生きるから。
キミの分まで、ユノを愛するから。

キミが、もう一人のぼくなら、
キミの心も、この胸に収めるよ。
キミの居場所は、ここだよ。
共に 生きよう。

愛してるよ。」

ジェジュンの手に、
ユノも、掌を重ねた。
ジェジュンの鼓動、
ユノの鼓動、
二人の温もりが一つになって、
その異形の者を包みこんだ。

それ以上、
誰も、何も言わず、
身動き一つさえしなかった。
時間がそのまま止まってしまったかのように。

静寂の長い刻が流れた。
いや、むしろ、
ほんの一瞬のできごとだったのかもしれない。

抱きしめられている“その者”自体も、
皆の目に映っていた妖艶なジェジュンの姿も、
輪郭が、徐々にぼやけてきて、
全体の形も色も、はっきりしなくなった。
そして、
霧のように細かい粒子となって、
すぅっーと消え失せていった。