それはジョン・ケージ(1912~92)が1952年に書いた「四分三三秒」という曲です。

ステージに登場した演奏者が一定の時間、一音も出さずに退場するというもので、その間に会場で聞こえてくる雑音や聴衆の発する音などが、すなわち音楽だ、という考えのもとに作られました。

実際は楽器の編成も演奏時間も任意で、楽譜には「休止」という指示があるのですが、これをニューヨークで初演したピアニストのデヴィッド・テュードア(1926~96)が、ピアノの前に座って指示通り何もしないでいた時間が、四分三三秒だったことから、この題名となりました。

つまり、ほかのピアニストが違う時間で演奏すれば、題名の時間表示も変わるわけで、何通りもの題名があることになります。

このことは曲の譜面にも記されています。

さらに、譜面には三つの楽章の表示まであり、それぞれの楽章に割り当てる時間も、演奏者の自由に任されています。

ケージの音楽思想の中には、偶然性の音楽、不確定性の音楽、というものがありましたが、その象徴的な作品といえます。

ちなみに、ピアニストに詩や呪文を唱えさせたり、ピアニストに演技もさせる作品などもあります。

数あるピアノ曲の中で特に長い曲は、フランスの作曲家エリック・サティ(1866~1925)の《ヴェクサシオン》。

演奏時間が1分半もないほどの、平易で短いフレーズを、840回も繰り返すという曲です。

しかも「ゆっくりと」という指示があるので、全体の演奏時間は、およそ18時間ほどになります。

何人かの演奏者が交替で、マラソン・コンサートのような形で演奏したこともあるようです。

なお、題名の「ヴェクサシオン」は、フランス語で「いやがらせ」「侮辱」を意味します。

反対に、特に短いピアノ曲として有名なのは、ショパンの前奏曲第七番(《24の前奏曲》作品28より)で、演奏時間はおよそ40秒。

18時間と40秒、同じ「一曲」なのにスゴイ差です。


ピアノが伴奏を務める演奏会では、ピアニストの横にある椅子にただ座って、たまに立ち上がる人がいます。

彼らが行っているのは「譜めくり」という行為は楽譜が誕生したあたりから始まりました。

だいたいがお弟子さんや関係者の方が行っています。

速すぎず、遅すぎない絶妙なタイミングでめくらなければならないため、息が合っている人でないと務まりません。

ちなみに現在では、ソロの場合は暗譜で弾く人が多く、楽譜を置いている人はほとんどいません。

しかし以前は楽譜を置いて弾くというのが一般的でした。

たとえ暗譜をしていたとしても、「作曲者に対して失礼」として、準備するのが普通でしたが、クララ・シューマンの時代から現在のようなスタイルになったようです。